今回は東日本大震災への対応を教訓としたBCPの訓練の在り方について解説する。特に、今回の震災発生以来、使われ続けている「想定外」というキーワードを基に再考する。

 共同ピーアールが2011年4月に実施した調査によると、東日本大震災時の危機管理対応について「うまくいった」と広報・IR担当者が考えている割合は、首都圏近郊の企業や団体において6割弱に達している(「東日本大震災 企業広報リスク対応状況に関する調査」)。

 未曾有の大震災にもかかわらず、首都圏を中心に震災による直接の混乱が比較的軽微だったのは、現場力の高さと、BCP(事業継続計画)が有効に機能したことの証左であり、我が国が誇るべき特性の1つといえるだろう。

 とはいえ、「危機対応に苦慮した」「BCPが予定通り機能しなかった」などの話も少なくない。この文脈では必ずといってよいほど「想定外」という言葉が使われる。

 本来、BCPは最悪のケースを想定して策定・訓練することが重要である。にもかかわらず、起こった事態を「想定外」という言葉で片付ける向きが少なくないところに、BCPの問題点が隠されている。

訓練は実施しているが、基本的な考え方を間違えていた事例

 BCPの訓練の目的は、大きく分けて以下の2つがある。

(1) BCPの有効性を検証する
(2) BCPの内容を関係者に周知し、有事の際に適切に行動できるように理解させる

 この2つの目的を果たすための一般的なBCP教育・訓練の種類とその概要を示す()。これらの教育・訓練の一部は消防法などの法令によって定められている。

表●BCP教育・訓練の種類と概要(アビームコンサルティングの社内BCP資料より)
教育・訓練名 概 要
BCP研修 地震などの有事に備えて自社で策定している方針やマニュアル、手順書の内容を周知するための研修。全社的な集合研修、部署別研修、e-ラーニングなど様々な形態がある。初動対応、避難方法、避難場所、安否報告方法などの教育が含まれる。
避難訓練 オフィスが入居している建物内の人に災害発生(地震・火災など)を知らせ、指定された避難経路を使用して安全な場所まで避難するための訓練。避難器具の取扱いに関する訓練も行われる。
消防訓練 火災発生時の初期消火活動や119番通報を行う訓練。消火器の操作や放水などの訓練も行われる。
図上訓練 周辺地図や被害想定地図などを用いて、状況整理や対応方針、対応事項の検討などを行う訓練。
救急救命訓練 疾患・外傷・中毒などを負った者が病院などに搬送されるまでの間に行う処置に関する訓練。AEDの使用方法や心肺蘇生、応急手当なども行われる。
安否確認訓練 有事の際に従業員の安否情報を把握するための訓練。以下で記載する緊急連絡訓練と同義として用いられる場合もある。また、従業員の安否確認のみでなく、従業員の家族の安否確認も含める場合がある。
緊急連絡訓練 緊急連絡網などを利用し、緊急時の連絡体制を確認・周知するための訓練。自社だけでなく重要な取引先(データセンター、ビル管理会社など)を訓練対象に含める場合もある。
参集訓練 就業時間外に震災などが発生した場合に、災害対策本部メンバーなどの要員が指定された場所に参集可能かを確認するための訓練。あらかじめ時間を指定して参集をかける場合と、指定期間内の任意の時間にいきなり参集をかける場合がある。
システム復旧訓練 システムに障害が起こった想定で障害の原因を特定し、復旧作業を実施する訓練。バックアップからのデータ復旧もこれに含まれる。

 今回の大震災で危機管理対応が「うまくいった」と考えている企業は、そうした法令からの要求を超えた教育・訓練を適切に実施できていたのだろう。だが、これまでの教育・訓練が不十分、もしくは実施できていなかったと感じる企業は、現場の問題意識が高いうちにすぐに実施に向け着手するべきだ。

 訓練についての説明に入る前に、まず想定についての考え方を念入りに説明したい。そもそも想定についての考え方を間違えている企業は、正しい訓練を実施することができないからだ。

 そこで、想定のやり方について重要な示唆を含む事例として、前述の表に示したような訓練を適宜実施してきたA社の取り組みを以下に紹介する。

 A社は毎年6月、地震に備えた図上訓練を実施してきている。全てのサーバーは定期訓練開始以前から中部支社のサーバールームに設置していた。

 2009年度に実施した図上訓練において、中部支社が入居しているオフィスビルの築年数が古く、耐震性に不安があることが問題となった。このままでは、高い確率で発生するといわれている東海地震に耐えられず、A社の基幹システムの機能が全て失われてしまう。

 そこで、2009年12月末までにサーバーを他地域の耐震性の高いビルに移転することとした。移転先としては、コスト面を考慮してA社の各支社が候補となった。東海地震を強く意識していたことから、特に東北や九州地方が有力視され、中でも耐震性が極めて高いオフィスビルに入居していた東北支社が最有力となった。

 検討に際して、宮城県防災会議地震対策等専門部会が公表した「宮城県地震被害想定調査に関する報告書」(2004年3月)も参照した。同報告書によれば、宮城県沖の最大級の地震はマグニチュード8.0、最大震度は県北部の一部で6強、周辺部では6弱、津波の最高水位は10mと想定されていた。

 東北支社が入居しているオフィスビルは県南部に位置しており、震度7の地震にも耐え得る構造だ。海抜15m程度の土地なので津波の心配もないと考えられた。

 そこでA社の全てのサーバーを東北支社に移すことにを経営判断として決め、2009年12月末に移転を完了させた。これを受けて2010年度の訓練は、「サーバーが被災することはあり得ない」という前提の下で訓練を実施した。

 そして、2011年3月11日に東日本大震災が発生し、A社の東北支社は、地震には耐えたものの、海抜15m近い土地への津波の遡上という「想定外」の浸水により全てのサーバー機能を失ったのだった。

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