以下の記事は2007年から2010年にかけて日経ソリューションプロバイダ、日経コンピュータに連載された記事の1つです。執筆時の情報に基づいており、取り上げた製品・サービスには現時点で古くなっているものもありますが、商談の経緯を知ることはユーザー企業にとって有益と考え、再掲しました。

ベンチャー企業から突然面会の申し入れが来た。自分が呼ばれた理由は定かではない。しかも、相手は自社の課題やシステムの現状について話そうとしない。奇妙な状況だが、相手の面持ちは真剣だ。商談につながるのではという予感が当たる。

 「当社が思い描いていたイメージそのものだ」。中央電力で財務・経理部長を務める栗山収はソランが提示したデモを見るとこうつぶやいた。反応を見た、ソランの関西事業本部ビジネスモバイル推進部の津村豪が、「これで受注は間違いないだろう」と確信した瞬間である。

 デモが終わると津山は上司であり、商談を引っ張ってきた中村信一に携帯電話でデモの成功を報告した。

 大阪に本社を置く中央電力は、マンション電力一括契約サービスを中心に事業を手掛ける、ベンチャー企業である。主に工場などが利用してきた、割安な料金体系の高圧電気を、40戸以上のマンション向けに一括契約で供給することで急成長している。

 同社はマンションに変電設備を設置し、電力会社との契約や設備の管理を代行。一般的な契約との差額の一部を手数料として受け取る。

 中央電力の栗山とソランの中村が最初に会ったのは2009年5月。当時の中央電力は、検針システムや請求書発行システムといった基幹システムの刷新プロジェクトを進めていた()。

表●中央電力がソランに検針システムを発注した経緯
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 このプロジェクトの費用や進め方についての情報を得るために、栗山は中村を呼んだのである。付き合いのある銀行の担当者に電力業界に強いベンダーとして紹介されただけで、この時点でソランに何かを発注するつもりはなかった。

基幹刷新プロジェクトが難航

 栗山の本心は、プロジェクトの立て直しにある。09年3月に大手システムインテグレータのA社にプロジェクトを発注したものの、要件定義の段階で想定していなかった機能が増え、09年5月時点で、当初予定の見積もりの1.5倍ほどに予算が膨れ上がっていた。

 プロジェクトは放置できない状況にあるというのが、プロジェクトマネジャーの栗山だけでなく、経営陣を含めた中央電力全体の認識だった。

 かといって既存のシステムを、そのまま使い続けるのも無理があった。システム刷新を検討し始めた08年11月の段階で、マンション電力一括契約サービスは1万5000世帯が利用しており、既存システムにはさまざまな問題が顕在化していたのだ。

 特に問題だったのは、毎月の電力の使用量を測る検針業務の支援システムである。中央電力では検針員が専用用紙に記録し、自宅のパソコンから記録内容をシステムに入力して管理していた。記録ミスと入力ミスが発生するリスクがあるだけでなく、持ち帰ってから入力するため、データの収集に時間がかかっていた。

業界の世間話で信頼を得る

 こういった事情を知らない中村が、栗山と会うことになったのは、電力会社のシステム構築案件に営業担当者としてかかわった経験を買われてのことである。

 一般的な知名度は低いものの、中央電力は業界では注目の急成長企業だ。中村が担当しているASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)事業との関連は高くはなさそうだが、じっくりと話せる機会が持てるのは悪い話ではない。

 初対面の後、電力業界の話で二人の会話は盛り上がったが、すぐに自社のシステムについて栗山が話そうとしないのに、中村は気づいた。といって、システム構築に興味がなければ自分と会う理由はない。

 「きっと何か言い出しにくい事情があるはず。聞かれるまでビジネスの話は避けよう」。中村はこう考え、営業トークを差し控えた。

 中村は自分が呼ばれた意図も聞かなかった。ソリューションは相手の課題に応えるもの。業務上の課題について知識のない、初対面の顧客に売り急がないのが中村の考えだ。

 栗山がシステムについて話さなかったのは、プロジェクトが難航しているのを知られたくなかったからである。とにかく、プロジェクトをどうすべきかを判断する材料を探していた。

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