以下の記事は2007年から2010年にかけて日経ソリューションプロバイダ、日経コンピュータに連載された記事の1つです。執筆時の情報に基づいており、取り上げた製品・サービスには現時点で古くなっているものもありますが、商談の経緯を知ることはユーザー企業にとって有益と考え、再掲しました。

アリエル・ネットワークは、国分と付き合いのある大手ITベンダー5社との勝負に挑んだ。国分は再構築する情報共有ポータルで、アリエルの提案と製品を採用。情報システム部門だけでなく、利用部門の要求や意見を積極的に聞いたことが功を奏した。

 「圧倒的に不利な立場だ」。アリエル・ネットワークで営業本部販売推進グループのリーダーを務める内海康延はこう感じた。上司の指示で、国分の情報システム部副部長である沼倉正に面談し、情報共有ポータル刷新プロジェクトの概要を聞いたときのことだ。

 アリエルを除き、コンペに参加した5社は、すでに国分と付き合いがある。情報共有ポータル向けの製品紹介も終えているという。「早急に情報を集めて、新システム構築の狙いを徹底分析する必要がある」。内海は気を引き締めた。

セミナーで興味を持つ

 国分が情報共有ポータル「Kompass」の見直しに着手したのは、システムの中核機能を担っていたグループウエア「Notes 4.6」の保守サポートが切れたためだ。KompassはNotesとWebアプリケーションを連携させた情報共有ポータルで、提携企業2社と共用していた。主に営業担当者が利用する電子掲示板システムだ。

 利用部門からは不満の声が上がっていた。探したい情報がなかなか見つからない、処理速度が遅い、などだ。システム部門にはNotesの技術者がいないため、運用・保守作業のすべてを外部のITベンダーに委託せざるを得ないという悩みもあった。

 2009年2月に、システムの再構築を検討し始めた()。他のシステムを任せていたITベンダー5社に声を掛け、グループウエア/ポータル製品の情報を集めた。

表●国分がアリエル・ネットワークに発注し、システムを構築するまでの主な経緯
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 5社から情報を収集していた沼倉だったが、製品の選定に悩む。「これに決める」というまでに至らなかった。このころ出席したセミナーの会場で、偶然アリエルのグループウエア製品の存在を知った。沼倉はその場で「詳しい話を聞きたい」と訪問を依頼した。

 国分の営業を担当したのが内海だ。6月12日に沼倉と面会、すぐに製品のデモを実施した。沼倉とその部下である小関隆一の反応を見て、「製品の機能は十分期待に応えられそうだが、状況は厳しい」と内海は感じた。

 アリエルを含む6社は、国分から受け取ったRFP(提案依頼書)を基に、提案書を作成。国分の沼倉は提案内容に基づき、候補を3社に絞った。

会いたいが会えない

 09年7月、残ったのは大手国産メーカーD社、システムインテグレータE社、アリエルの3社だ。小関は「3社の提案内容は甲乙付けがたかった」と話す。そこで3社に、国分の営業推進部を交えた場でデモをするよう依頼。7月末に実施した。このデモには情報システム部と営業推進部の担当者が出席した。

 ところが結論を出せない。そこで国分の沼倉は、現行システムのNotesデータベースを使い、導入後のイメージに近い形で再度デモを実施するよう、3社に依頼した。

 アリエルの内海は6月以降、小関と頻繁に連絡し、国分のオフィスにも十数回足を運んでいた。新システムに何を望んでいるのかをより詳細に把握したいと考えたからだ。この過程で、キーパーソンは情報システム部と営業推進部に所属する7人だと知った。「皆さんは通常、どのような業務を担当されているのですか」。内海は小関から、キーパーソンそれぞれの担当業務や、どのベンダーの提案を支持しているかを探った。「7人が何を求めているのかを少しでも知りたい」との一心だった。

 7月末の2回目のコンペで、ようやく営業推進部のキーパーソンと名刺交換する機会を得た。コンペ終了後、内海は早速営業推進部所属のキーパーソン一人ひとりに電話をかけ、デモの印象を聞いた。さらに「直接お会いしてご意見をいただけないでしょうか」と、面会を依頼した。「いえ、それは公正さを欠いてしまいます。やめておきましょう」と断られる。内海はあきらめない。「近くまで立ち寄ったのですが、少しだけお時間はありませんか」。毎日のようにメールを送り電話をかけ、面会を求めた。結局最後まで面会はかなわなかったが、新システムに対する要望をいくつか収集できた。

 8月の最終コンペには、D社、E社、アリエルの3社が臨んだ()。このうちE社はデモシステムの検索機能の処理速度が遅かったために心証を悪くし、選考から外された。残る2社、国産メーカーD社とアリエルの勝負になった。見積金額は同程度だったという。

図●コンペに参加した6社の提案内容と、国分の評価
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利用部門を味方にする

 ここで内海が電話やメールで営業推進部のキーパーソンから得た情報が生きた。情報収集の努力が実を結んだ格好だ。

 内海はあるメンバーから「通報機能がほしいね」との意見を聞き出していた。現行システムは、掲示板に間違った情報が掲載されているのを見つけた場合、メールや電話で掲載者に連絡を取らねばならず、手間がかかっていた。

 内海はデモの際に、「当社製品の伝言機能を使うと、クリック一つで情報掲載者にメッセージを送れます」と、具体的にアピールした。「機能面で大きな違いをアピールするのは難しい。むしろ利用部門のかゆいところにも手が届く製品であることを訴えようと考えた」と、内海は振り返る。

 キーパーソンである7人の意見は割れた。新システム導入を機に運用の負担を軽減したい情報システム部のメンバーは、D社を推した。他のシステムの運用技術者がすでに常駐しており、運用支援に大きな追加コストがかからないからだ。しかし、より使い勝手がよいシステムを求める営業推進部のメンバーは、アリエルを支持した。

 最終的に、軍配はアリエルに上がった。「D社と比較すると、アリエルは企業規模が小さく、サポートや実績に不安もあった。ただシステムを利用する営業推進部の意見を重視した」。沼倉は打ち明ける。

 国分は当初の予定通り、2009年12月に新情報共有ポータルを稼働させた。