以下の記事は2007年から2010年にかけて日経ソリューションプロバイダ、日経コンピュータに連載された記事の1つです。執筆時の情報に基づいており、取り上げた製品・サービスには現時点で古くなっているものもありますが、商談の経緯を知ることはユーザー企業にとって有益と考え、再掲しました。

基幹系システム再構築の商談で最終選考に残ったものの、失注した。だが、ユーザー企業はほかにも課題を抱えている。CSKシステムズの営業担当者は、システム部門を通い続ける。これが奏功し、子会社のクラウド商談を獲得。今月、全面稼働の日を迎える。

 「基幹系システムの再構築は、御社ではなくITベンダーA社に発注することにしました」。CSKシステムズの西日本事業本部製造システム営業部第三営業課でアシスタントマネージャーを務める楠本忠司は、電源機器メーカーである三社電機製作所(以下、三社電機)のシステム担当者にこう告げられた。CSKシステムズは、最終選考に残ったものの、受注できなかった。2007年10月のことだ。

 「試作版のデモを高く評価されていたのに、受注できず残念だ」。楠本は悔しさをにじませた。だが、「これで三社電機との関係が切れるわけではない。別の案件を掘り起こし、次こそ受注してみせる」。楠本は気を引き締めた。

 「三社電機は、情報化で基幹系以外にも課題を抱えている」。楠本は基幹系システムの提案活動を通じ、このことを見抜いていた。楠本は、基幹系システムの営業を続けながらシステム全体に関する情報を収集してきたのだ。

*持ち株会社のCSKホールディングスの連結売上高

手応えを感じながらも失注

 三社電機が基幹系システムの再構築を検討し始めたのは2006年7月ごろからだった()。ERP(統合基幹業務システム)パッケージを使って新システムを作り直すというものだ。

表●三社エンジニアリングサービスがCSKシステムズにグローバル保守サービスシステムを発注するまでの経緯
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 三社電機は2007年6月、CSKシステムズを含むITベンダー4社にRFP(提案依頼書)を提出した。楠本はこれを基に7月から8月にかけて新システムの提案活動を進めた。

 CSKシステムズが、三社電機に提案したのが、ある外資系ベンダー製ERPパッケージによる再構築だった。三社電機の機能要件の多くを満たし、改修作業の負担が軽かったからだ。利用部門に使い勝手を評価してもらうために、試作版を作成。「データをExcel形式で出力できるなど、使いやすい」。利用部門からの声に、楠本は「受注できそうだ」と手応えをつかむ。

 だが、三社電機が選択したのは、競合が提案した別の外資系ベンダー製ERPパッケージ。導入実績などが評価された結果だ。

基幹系と並行し商機をうかがう

 楠本は基幹系システム再構築の失注に落胆している暇などなかった。基幹系システム再構築の商談中に、三社電機のシステム担当者からそれ以外の情報化の課題についても聞いていた。「いくつかの課題のなかから、商談に持ち込めるものがありそうだ」とにらんでいた。

 例えば、ネットワーク環境、ファイルサーバー、メールを含む情報系システムなどだ。楠本は、システム構成や利用状況などを把握した。専用線から光ファイバーへの移行や、情報系システムの刷新などを提案した。楠本は徐々に三社電機のシステム担当者の信頼を得るようになった。

 三社電機のシステム担当者は、本社だけでなくグループ会社が抱える情報化の課題についても、楠本に相談を持ちかけるようになった。「保守サービス子会社の三社エンジニアリングサービス(SES)が、新システムの導入を検討している」。

 SESは、顧客や修理履歴などのデータを紙で管理していた。顧客から問い合わせが入った際、書類を探すのに手間取り、迅速に対応できないという課題を抱えていた。

 中国や米国など、海外からの修理依頼に時間がかかることも課題だった。現地の販売会社は、修理に必要な部品の発送やエンジニアの派遣を本社に要請するケースもある。このとき、日本と現地の担当者の間で言葉が通じず、修理対応に時間がかかることも珍しくなかった。

複数の選択肢を提示

 「保守サービスの品質を向上させたい」。楠本は2008年6月、SESの業務課主査(当時)の吉田淳三郎から、A4用紙4枚を手渡された。紙と電話による情報のやり取りでは、顧客への保守サービス対応に時間がかかるなど、業務上の課題がぎっしりと書き込まれていた。

 楠本は、システム概要を1枚の図にまとめて提出した。顧客情報や修理履歴、納入機器などの情報を電子化し、データベースで一元管理する仕組みだ()。本社と海外の販売会社が同じデータベースを共有できることも狙った。

図●CSKシステムズの提案のポイントとグローバル保守サービスシステムの概要
CSKシステムズは、システム運用負荷がかからず、機能拡張がしやすい点などを導入メリットとして提案した
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 「SESにはIT専門の部署がない。システム運用の手間を極力抑えたいはずだ」。楠本はこう考え、セールスフォース・ドットコム製CRMソフトのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)である「Salesforce CRM」を提案することにした。

 楠本はSalesforce CRMだけを提案したわけではない。パッケージ製品などを紹介し、最適な製品/サービスを選んでもらうのが得策だと判断した。SESが、楠本が推奨するSalesforce CRMではなく、別の製品に興味を持ち、他ベンダーに声を掛けてしまえば、商談を逃すリスクが生じる。複数の製品を提案することで、こうした事態を回避しようとした。

 楠本は、Salesforce CRMと別のSaaS、さらに業務パッケージ2製品という計四つの選択肢を提示。楠本の目算通りにSESは、運用負荷がかからない点でSaaSを選択した。

 楠本は、Salesforce CRMともう一つのSaaSのどちらかを選んでもらうため、47の機能要件について、それぞれの対応状況を示す資料を用意した。CSKシステムズの技術者の協力を得て、「システムの拡張性」や「多言語対応」などの項目ごとに得点を付けた。

 「導入実績も豊富で、機能拡張の費用を安く抑えられる」。SESは、こうした理由でSalesforce CRMを選んだ。「複数のサービスを紹介したり、各々の特徴を分かりやすく説明してくれたりした。信頼できる相手だ」。吉田はCSKシステムズをこう評価した。

 SESのグローバル保守サービスシステムは、2009年7月にSES本社と中国の販売会社が利用を開始。2010年7月中には米国とシンガポ ールの販売会社にも利用を拡大する計画だ。