日産自動車の新型小型車「マーチ」は、その中身とは別の点で業界の耳目を集めている。タイや中国など新興国だけで量産する体制に踏み切ったからだ。日本では生産しない。その理由は、端的にいえば生産コスト低減。だが、それがコスト低減に最も寄与した要因かといえば、そうではない。カギは、新開発のプラットフォームに見られる「設計の共通化」である。

日本向けはタイから

 新型マーチは、既にタイ、インド、中国で量産が始まっているほか、現在メキシコで量産の準備を進めている。従来型は日本と英国で造っていたが、量産拠点を完全に新興国に移管した形だ。日本市場向けモデルは、タイから輸入している。

タイ工場のラインオフ式典
左は日産自動車代表取締役COO(最高経営責任者)の志賀俊之氏、右はタイ副首相のTrirong Suwanakiri氏。

 労務コストが相対的に低い新興国で造れば生産コストも下がる、と考えるのは早計だ。確かに総論としてはそうなのだが、多くの点で不慣れな新興国の工場では、量産準備に掛かるコストが読みにくい。現地での修正や手戻りなどが多発すれば、日本から技術者や技能者を送り込むことになり、下手をすると日本で造る場合よりもコストがかさむといった事態に陥りかねない。現地で量産準備を円滑に進められないと、新興国に量産拠点の移管することのコスト低減効果が薄らいでしまう。

なぜ生産コストは注目されないか

 一般に、総合的な生産コストを低減するためのカギは、調達コストの低減と同様、設計の共通化だ。モジュラーデザインの専門家である日野三十四氏によれば、設計の共通化による成果として、調達コストの低減が注目されることが多いが、実はそれ以上に大きいのが生産コストの低減だという。

 設計の共通化によって調達コストを低減できるのは、複数のモデルで部品を共用するからだ。ただし、その場合は前回も説明したように、要求仕様のバラつきを吸収できるように「余裕のある」設計にしなければならないので、それぞれのモデルを詳細に見ていくと「ムダ」に映る個所が存在する。これは程度問題だが、設計を共通化しないで個別に最適設計をした方が安上がりではないかという理論は、当然ながら成り立つ。

 ところが、ここに「設計の共通化による生産コストの低減」という別の軸が入ることで、モジュラーデザインの優位性が鮮明になってくる。部品だけではなく、加工機や金型なども共通のものを使えるようにすることで、加工や組み立て、量産準備など、もろもろの生産コストを減らせる。調達コストと生産コストの両方を意識しているのが、モジュラーデザインの最大の特徴といえる。

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