図1●通常のシャープペンで書いた筆跡(左)と,クルトガによる筆跡(右)
通常のシャープペンでは,芯の偏減りで線が薄くなり,それに気づいたユーザーがペンを持ちかえることで不連続に濃くなるところがある。これに対してクルトガでは,偏減りをなくしてこうした問題を解消した。
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 あらためて芯の偏減りについて検討し直すと,文字などを書くというシャープペンの基本機能に内在する問題点を,かなり解消できそうなことが分かってきた。例えば通常のシャープペンでは,書いているうちに芯が斜めに減り,芯先が竹を斜めにそいだような形になる。紙への接触面積が増えるから,筆記圧力が低下し線が薄くなる。すると,多くのユーザーはあまり意識することなく,線が薄くなってきたからと濃い線が書けるようにペンを持ちかえる。結果として,ノートに続けて書いた文字などには,薄い部分と濃い部分が生じてしまう(図1)。芯が偏減りしなければ,このような持ち替えは必要なくなるはずだ(図2)。

図2●クルトガの芯先の拡大写真
芯の先端は円すい形状になる。通常のシャープペンで芯が偏減りすると,竹を斜めに削いだような形になる。
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 加えて,線が薄くなったときなどに力を入れすぎて芯を折ってしまうトラブルも,減らせる。芯先が竹を削いだような形状になると,先端部分が砕けて書き味を損ねるが,それも解消できることが分かってきた。

モータは以前の経験で却下

 偏減り解消,すなわち芯の回転をテーマにしてから,まず検討したのは芯の回転を実現する機構。動力源としては筆圧の変化を利用する方法,芯の繰り出し時のノック動作を利用する方法,通常の筆記動作とは別に「芯を回す」動作をユーザーに求めるものなどが考えられた。

 このうち,モータを使う方法については,たまたま以前に物理的な試作までした経験から,有望でないことは分かっていた。三菱鉛筆は社内で年に1回「アイデアコンテスト」を実施しており,このときにモータで芯を回すシャープペンを試作。ペンが芯の回転の反動で,ユーザーの意図と異なった動き方をしてしまい,「手を取られる」(中山氏)感覚になることが分かっていた。アイデアコンテストの時点では実用化は二の次だったが,これがあったために今回の開発案件ではムダな試行錯誤を省くことにつながった。

 ノック動作を利用する方式は,回転する頻度が少ないと考えられた。偏減りをなくすには,一定以下の間隔で少しずつ回転させる必要がある。中学生や高校生がノートに文字を書いていくという利用場面を想定すると,漢字かな混じり文で2~3行書いたときに芯が360°回転するようにしたい。ノック方式だと芯の繰り出し時,つまり2~3行に1回しか回転させる機会がないから,明らかに実現不可能だ。ユーザーに芯を回転させるための専用の操作をしてもらう方式は,ユーザーがシャープペン自体を持ち替えながら使っている現状を考え併せると,実現してもあまり意味がないという判断を下した。

 こうして,歯車状のカムを用いた機構を用いる方法を使うことに決定。実際に試作してみて,動くことを確認した*1。この試作品をもってマーケティング部門に商品化を提案した結果,本格的に商品開発プロジェクトとしてスタートしたのである。

*1 試作品のカム部品の歯数は10枚。最初動かなかったが,改良の結果動くようにできた。機構上カム部品を下方に押し付けるばねが必要だが,このばねでカム部品を直接押していたため,ばねのねじれがカム部品の回転を邪魔していた。ばねとカム部品の間に摩擦の少ない別の部品を追加することで,ばねのねじれがなくなった,というのが改良点の一つ。

 2001年から試作品を作る2005年まで,中山氏のグループには4年間,シャープペンの基本機能について考え続ける時間があった。結果として商品としての目新しさにつながったが,テーマ自体は「芯の偏減り」という極めて基本的なものだった。「(この)基本機能を追究するという方針が一切ブレなかった」(中山氏)ことが有効なテーマ設定につながり,商品開発を成功へと導いたと言えよう。