トヨタ自動車は2008年秋ごろから,エンジンや車両全体の挙動を少数のパラメータで代表させてモデル化した「パラメータモデル」を用い,新規開発車種の性能を論理的に最適化する試みを始めている。これはPart 1で述べたように,リーマンショック以後,原価低減と商品力の向上に直接CAEを役立てようと考えた同社が,この1年間で急加速させている取り組みだ。

 手始めに,商品力として現在,最も重要な燃費性能を高めるべく,エンジン全体の挙動をパラメータで表現したモデルを開発。次いでエンジン主要部品のうち,クランクシャフトと排気マニホールドの概略を表現したモデルも開発した(図1)。

図1●トヨタ自動車における,方向付けのためのCAE活用
2008年ごろから,設計の上流段階で設計の方向を決めるためのCAE活用に力を入れている。従来の設計案を検証するためのCAEでは,精度とスピードの向上を図っている。
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 この新しい試みは,「企画CAE」「骨格CAE」と呼ばれる。企画CAEはエンジンや車体全体を対象とし,燃焼状況の最適化などを通して主要な仕様を決めるもの。骨格CAEは企画CAEの計算結果を受けて,主要部品が所定の機能を果たすよう,概略の形状を決めるためのものだ。

 例えば燃費の良い自動車を設計するとしたら,それを達成するための理想的な仕様を企画CAEと骨格CAEでまず決めてしまう。「車両とのスペースの取り合いや,生産技術要件はいったん棚に上げておく」(同社第2技術開発本部エンジンプロジェクト推進部エンジン計画室シニアスタッフエンジニアの沢田龍作氏)。つまり,設計者として最も重要な,機能を実現することにまずは集中するのである。

 従来のCAEは,設計がある程度固まってから試作の代わりに設計内容を検証するもので,効果は試作費用の削減だった。半面,試作直前の段階では根本的な修正ができないため,解析結果に基づいて燃費を改善するようなことは難しかった。

エンジンをパラメータで表現

 企画CAEは,設計者から見れば設計上のパラメータ(ボアやストローク,圧縮比など)を設定することで,燃費がどうなるか,そのとき発生する力や排気の状況がどうなるかを計算するツールだ。設計者は自分の経験や知識に基づいてパラメータの設定を変え,最も燃費の高い設定を選ぶ(パラメータスタディー)*1。ここで決まったボアやストロークの値を,その後の設計作業で3次元形状に落としていくのである。

*1 実験計画法を用いてパラメータを振ることも考えているという。

 ツール内部の計算は,燃焼の状況を最適化する「燃焼モデル」と,その結果に基づいて燃費や出力といった性能を計算する「1次元パラメータモデル」に基づいて実行する。燃焼モデルは燃焼室の3次元モデルを,1次元パラメータモデルは摩擦と吸排気の熱流れをパラメータで表現したモデルを用いる。

 これらのモデルは,「本来は熱効率の物理モデルから理論的に作成したい」(トヨタ自動車の沢田氏)が,現状では実在するエンジンを基に作成している。吸排気系など複雑な3次元形状を持つものを,パラメータでうまく表現するところにノウハウがあるという*2 。

*2  計算結果を実測に合わせ込むための,物理的な意味のない係数は一切使わないという。

 こうした企画CAEの結果を受けて,骨格CAEに移る。例えばクランクシャフトの場合,企画CAEで得られた燃焼圧(力)から良好な回転を得られるよう,ピン径や幅などを決めていく。ここでは,こうしたパラメータを基に3次元CADで形状を作成し,有限要素法ツールで評価することで最適な形状を求める。

 一方,排気マニホールドの場合には,パラメータによる1次元モデルを用いる。この際,最適化の結果決めた設計パラメータ(パイプ部Rなど)から自動で3次元形状を生成できるよう,処理プログラムも開発している。

 こうしてパラメータスタディーを実行してみると,「ちょっとパラメータを調整するだけで何%も燃費が良くなる」(沢田氏)ということが起きる。「いずれパラメータスタディーが広く普及すれば,それだけで競争優位性を保つことはできなくなるが,当分はパラメータモデルを開発して最適化を図ることで大きな改善をしていきたい」(同氏)。

 同社は現在,骨格CAEの範囲を広げるとともに,車体全体を表すパラメータモデルも作成しようとしている。企画CAEと骨格CAEで最適化したエンジンを車体に搭載したときに,予定通りの燃費を達成できるかを予測するものだ。