「民間のIT部門に比べ、技術的に10年以上遅れていた。ITに関してはベンダーに丸投げしている状態で、ハード保守が切れたタイミングで100以上のシステムを順に更新するのが主な役割だった」。

 浦山清治CTO/CSO補佐(情報化支援専門監)は、2008年における東京・足立区のIT部門である政策経営部情報システム課の状況をこう説明する(図1)。「自分たちの存在意義は無いのではないか、とまで悩んでいた」と、保志野広システム最適化担当係長は当時を振り返る。

図1●足立区役所が実施した改革
業務の“見える化”をIT部員が実施・主導できるようにし、ベンダーへ過度に依存する体質を改めた
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 民間からの公募で就任した浦山CTO/CSO補佐は2008年からの3年間、部門改革に取り組んだ。ベンダーからITに関する主導権を取り戻すのが狙いだ。鍵となったのは「見える化」と内製化である。

結果を生かして内製化

 鳥山高章情報システム課課長は、「自治体は業務フローをきちんと整備しているイメージがあるかもしれないが、実際はそうではない。システムに依存しており、フローを明文化していなかった」と話す。パッケージソフトを利用していたり、担当者が4年ごとに部署を異動したりするため、「業務の流れが余計に見えなくなっていた」(鳥山課長)。

 そもそも業務の流れを把握できないと、要件を自分たちで決めることができない。結果的に、システムの開発はベンダーの提案に頼るしかない状態に陥っていた。

 悪循環を断ち切る第一歩は、業務の「見える化」だった。業務を把握すれば、何が必要か見えてくる。これが「システム導入の主導権を取り戻すことにつながる」と浦山CTO/CSO補佐は考えた。

 実際に見える化に着手したのは、2011年に人事給与システムを刷新した時だ。ここではIT部員が二つのツールを使って、人事給与業務の見える化を進めた。一つは、Excelで開発したDMM(ダイヤモンド・マンダラ・マトリックス)ツール(図2)。一つの機能を最大八つに分解、それを3 ~4階層になるまで繰り返す。自治体のEA(エンタープライズ・アーキテクチャー)分析で利用実績があり、浦山CTO/CSO補佐が推薦した。

図2●足立区役所が業務分析に利用したDMM(ダイヤモンド・マンダラ・マトリックス)
一つの機能を八つのサブ機能に分解、3階層まで定義する。図では「人事給与システム」のサブ機能の「研修」までを示した
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 もう一つは、タクトシステムズのツール「VisiSOX」だ。表形式で業務内容を入力すると業務フローの図を自動生成する。保志野係長がIT展示会で見つけた。

 人事給与システムでは見える化にとどまらず、結果を生かした内製化までを一気に実施した。「ベンダーが薦める自治体向けパッケージソフトはアドオン(追加開発)が全体の3割を占め、コストは安くならない。ちょっとした追加開発でも1か月はかかる」(保志野係長)からだ。業務フローを入力するとシステムを構築できるノンプログラミングツールである、アトリスの「PEXA」を利用した。

 もちろん、ベンダー依存の状態から見える化・内製化への転換を図るのは容易でない。2008年の時点で、「IT部員から『TCP/IPとは何か』と聞かれて驚いた」と浦山CTO/CSO補佐は証言する。

 そこで同氏は情報システムの開発・運用の基礎を30冊の教科書にまとめた。並行して、知っておくべきIT知識を定義した。「コンピュータの基礎」「要求定義・設計と開発手法」「プラットフォーム/運用」「セキュリティ」「マネジメント/ガバメント」といった8分野について、システム課職員、利用部門の管理職員と一般職員のそれぞれがどの程度理解すべきかを数値で表した。例えばシステム課は800年満点中555点以上が必要だが、一般職員は最低95点でよい、といった具合だ