生産性の向上やコスト低減といった経済的な利点をもたらし,幾何公差の利点の一つとなっているのが,「最大実体公差方式(Maximum Material Requirement:MMR)」「最小実体公差方式(Least Material Requirement:LMR)」。サイズ形体に指示された寸法公差と幾何公差の間に特別な関係(相互依存性)を要求するもので,簡単に言うとMMRやLMRを指示することで幾何公差を緩和でき,製造や検査コストを低減できるのだ。

 この二つの方式は,どちらも中心線または中心面といった誘導形体に対してのみ適用する。ただし,「最大」と「最小」では,使用する目的が全く異なる。例えば,二つのフランジをボルトによって締め付けて組み立てる部品を考えよう。

 MMRは「ボルト穴とボルトを干渉しないように組み付けたい」という機能的要求に付随して使用する〔図1(a)〕。一方,LMRは「ボルト穴とフランジ端面の最小肉厚を確保する」という機能的要求を満足させるために使用するのである〔図1(b)〕。

【図1】最大実体公差方式(MMR)と最小実体公差方式(LMR)
MMR,LMRは,ある一定の境界形状を超えなければ,幾何公差の値を緩和できる。MMRは干渉防止のために, LMRは最小肉厚を確保するためなどに使う(a,b)。

 JISの解説でもMMRとLMRの項には専門用語が頻出するため,特に難解だと感じるエンジニアが多いようだ。しかし,ポイントを押さえれば難しいことはない。それは「最大実体実効状態(Maximum Material Virtual Condition:MMVC)」と「最小実体実効状態(Least Material Virtual Condition:LMVC)」を正しく理解すること。MMRとLMRの最も重要な基本ルールは「MMVC/LMVCの境界を越えてはならない」という点だからだ。

 MMVCとLMVCを解説する前にまず「最大実体状態(Maximum Material Condition:MMC)」と「最小実体状態(Least Material Condition:LMC)」について知っておこう。MMCは,サイズ形体のどの部分においてもその実体が最大となるような状態。逆に実体が最小となるような状態がLMCである。MMCを示す寸法を最大実体寸法(Maximum Material Size,MMS),LMCを示す寸法を最小実体寸法(Least Material Size,LMS)という。
ポイントはMMC/LMCの「実体」が部品の体積を表しているということ。対象となる形体が外側形体(キーや平行ピンなど)の場合は,最大許容寸法がMMSを,最小許容寸法がLMSを表す。これに対し,内側形体(ダボ穴やキー溝など)の場合は,最小許容寸法がMMSを,最大許容寸法がLMSを表す。

 つまり,軸の場合は,対象となる形体のどこを測っても最大許容寸法で部品の体積が最大になる状態がMMCに当たる。穴の場合のMMCは,どこを測っても最小許容寸法の場合となる。LMCはMMCの逆で,部品の体積が最小になった状態だ(図2)。特に,内側形体では,形体の大きさと,最大および最小の言葉の意味が一見逆に感じられるため混乱しやすいので注意してほしい。

【図2】最大実体状態(MMC)と最小実体状態(LMC)
MMCは部品の体積が最大である状態を指し, LMCは部品の体積が最小である状態を指す。従って,外側形体と内側形体では寸法の扱いが逆になることに注意。特に内側形体では,寸法の大小関係をみるとMMC<LMCであり,MMCの場合に形体の寸法が最小になり,LMCで寸法が最大になる。

 MMC/LMCを理解したところで,MMVCとLMVCについて説明する。MMVCとLMVCは,それぞれMMRとLMRの適用に関連しており,MMVCはMMCと幾何公差との総合効果によって生じる完全形状の境界を,LMVCはLMCと幾何公差との総合効果によって生じる完全形状の境界を指す。そして,MMVCを決める寸法のことを最大実体実効寸法(Maximum Material Virtual Size:MMVS),LMVCを決める寸法のことを最小実体実効寸法(Least Material Virtual Size:LMVS)という(図3)。

【図3】最大実体実効状態(MMVC)と最小実体実効状態(LMVC)の基本的な考え方
最大/最小実効状態の形状は,実体状態の形状がさらに幾何公差の公差値の範囲内で倒れたり曲がったり,離れたりした状態を想定した状態での外接形状や内接形状だと考えればよい。ただし,軸などの外側形体と内側形体(穴など)の境界の違いに注意しなければならない。MMVCは例えば干渉防止のための境界を表し, LMVCは例えば最小肉厚を確保するための境界を表す。
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 前提となる用語を理解したところで,MMR/LMRを適用する上での基本的なルールについて説明しよう。MMRは「M」を「○」で囲んだ記号で,LMRは「L」を「○」で囲んだ記号で表される。共に公差付き形体,データム形体のどちらにも適用でき,それぞれ公差記入枠の中の公差値の後,データム記号の後に続けて付記する。ただし,適用できるのは,公差付き形体の場合は中心線または中心面,データム形体の場合は中心軸直線または中心平面のデータムに限られる(図4)。

【図4】MMRとLMRの指示方法
公差値の後に指示する場合と,データム記号の後に指示する場合で解釈が異なる。中心面や中心線に対してのみ適用できる。

 MMRを適用した場合,公差記入枠中の公差値が適用されるのは,指示したサイズ形体がMMCのときのみで,サイズ形体がMMCより小さくなるに従って,図3の③,⑨に示すようなMMVCの境界を超えない範囲で幾何公差の公差値が緩和される。つまり,MMVCを超えなければ,図面に記載した幾何公差の値よりも大きく曲がったり倒れたりしてもよいのだ。

 LMRの場合はこの逆となる。公差記入枠の中で指示した幾何公差の公差値が適用されるのは,指示したサイズ形体がLMCのときのみ。サイズ形体がLMCより大きくなるに従って,図3の⑥,⑫に示すようなLMVCの境界を超えない範囲で幾何公差の公差値が緩和される。例えば,穴にLMRの指示があった場合,指定された寸法公差内で細めの穴に加工すれば,その分だけ曲がっていてもよいということだ。