部品点数が少なく,ただ積み上げるような単純な構造であれば,アセンブリの公差は簡単に計算できる。しかし部品点数が多く,部品と部品が接触する部分の向きや形状が複雑なアセンブリの公差を計算するのは,かなりの手間を要する。

 忙しい設計者にとって,公差計算をいかに効率化するかは非常に重要な課題だ。計算結果を見ながら対応策を検討することこそ時間を割くべき本来の設計業務であり,それ以外の作業工数が増えるのはムダである。このムダをすっきり排除しないと,公差設計の導入にも黄信号がともりかねない。

検討結果を帳票化

 公差の計算処理を自動化する方法として,まず思い付くのは表計算ソフトの活用だろう。公差の値を入力する欄と計算結果を表示する欄を用意し,計算結果の欄には互換性の方法や不完全互換性の方法などに従った計算式を埋め込めばよい。

 しかし,公差計算は設計業務の中で何回も実施し,試行錯誤しながら求めていくもの。せっかく表計算ソフトを利用するなら,使い回しができ,自分以外の技術者が見ても分かりやすいテンプレートを用意しておくといいだろう。

 例えば,プラーナーが作成した公差計算シート(図1)。大きく三つのエリアに分けたレイアウトになっていて,左上のエリアAには,アセンブリの構造を示す概要図や部品間の公差の関係である計算式などの基本情報,右上のエリアBには部品の一覧および各部品の寸法や公差などに関する情報,下側のエリアCに複数の手法による計算結果を配置している。

図1●公差計算シート
「Microsoft Excel」のような表計算ソフトの活用で,公差計算を効率化できる。単に計算処理を自動化するだけでなく,入力や結果表示のレイアウトを工夫することで,公差検討の試行錯誤がしやすくなったり,検討結果をまとめた報告書に流用したりといったことが容易になる。図はプラーナーが作成した公差計算シートの例。エリアAに概要図や計算式などの基本情報,エリアBに部品の一覧および各部品の寸法や公差などに関する情報,エリアCに,複数の手法による計算結果を表示するようにしている。

 設計者がエリアBの一覧表に寸法や公差の数値を入力すると,エリアCに管理すべき部分の公差が表示されると同時に,エリアBには各部品の寄与率も表示されるように工夫してある。

 管理すべき公差が一つのアセンブリ内に複数あった場合は,エリアBの一覧表を拡大することで対応可能だ。縦の項目欄にアセンブリを構成する全部品を列挙し,横の表題欄に管理すべき公差を並べればよい。こうすることで,ある部品の公差が影響を与える管理項目がどれなのかも把握しやすくなる。

 このように,入力情報と計算結果などの大事な数値が見やすいレイアウトで表示されるようにしておくと,帳票として印刷する場合にも便利だ。社内で実施するデザインレビュー(DR)などに活用できるだけでなく,顧客から公差計算の結果を教えてほしいと求められた場合にも即座に対応できる。「公差設計に取り組んでいる先進企業は,モジュールの設計を外注した場合などに公差計算書を出すことを要求するようになってきている」(プラーナー代表取締役の栗山弘氏)。

3次元モデルを使って公差検討

 表計算ソフトを用いる公差計算シートの活用は,取り組み始めやすい半面,計算式の定義などは手作業となる。自ら考えねばならない部分が多いため,公差設計の本質を習得するという意味では効果が大きいものの,ある程度のレベルに達した設計者なら「もっと便利なツールはないのか」と言いたくなるだろう。

 特に,3次元CADを設計ツールとして導入している場合は,公差検討も3次元CADと連携して実施したくなる。そこで今後,利用が確実に拡大していくのが3次元公差解析ツールだ。

 「3次元CADとの連携が強まるなど,公差解析ツールの使い勝手はここ数年で大幅に向上している」(いすゞ自動車CAE・システム推進部IDEPグループスペシャリストの大林利一氏)。いすゞ自動車が公差解析ツールに出合ったのは約20年前にさかのぼるが,「当時のツールは,利用するのに膨大な工数がかかっていた」(同氏)という。

 同社が公差解析ツールを使っている目的の一つが,不具合への対応である。例えば,中型トラックの排気管の組立性向上で悩んだときも,同ツールが活躍したという(図2)1)

図2●排気管の構成
エンジン側から組み付けていくパイプ群と,車体側から組み付けていくパイプ群を最後に接続するのが,パイプAとB。このため,AとBの合わせ部分に各部品の公差や組み付け誤差の影響が集積され,接続部(フランジ面)の取り付け穴同士で大きな位置ズレが発生した。『いすゞ技報』第119号を基に,本誌が作成。