受注生産の分野でも,品質・コスト・納期(QCD)に関しての条件が厳しくなっている。納期通りに個々の顧客の要望通りのものができてこないケースが以前より増えてきた。そこで,受注生産であっても,さまざまな顧客に対して共通に供給できるモジュールを用いるなどしてQCDの改善を図ろう,という取り組みが多くの企業で進んでいる1)

*1 例えば,アセンブリを組み付けるためのねじ4本を組立ラインに対して直接供給するという場合は,アセンブリもねじ(1本ずつ)も同じくBOMの基本単位になる。

 この取り組みは「モジュラー設計」と呼ばれることが多い。しかし,単純に言葉から受ける印象とは異なり,設計部署だけが取り組むものではない。設計の前後を含めた幅の広い連携を伴うことから,どのモジュールを共通化するかの情報を,全社的に共有する必要がある。そこで注目を集めているのが,これまで主に見込み生産の分野で使われてきた,BOM(部品表)を受注生産に応用することだ2)

*2 紙幣処理モジュールは最終製品ではないが,繰り返しの単位をなるべく大きなくくりで実現するという基本的な考え方は文中の精密事務機器メーカーと類似している。

生産も営業も変わる

 オムロンは,鉄道用自動券売機や自動改札機にモジュラー設計の考え方を導入,品質や納期の面での抜本的な改革を実行した。まず,製品の構成をモジュールに分割(図1)。その上で,モジュールによっては何通りかのものを用意しておく。各モジュールの組み合わせで,顧客のさまざまな要望に対応する。

図1●オムロンの鉄道用券売機におけるモジュール設計
全体をモジュールに分割し(a),それぞれのバリエーションの組み合わせでさまざまな仕様を満たす(b)。
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 通常の券売機は,磁気券の発券機構と紙幣を扱う機構,硬貨を扱う機構などから成る(図2)。同じ構造で,発券機構にICカードを扱えるモジュールを使い,硬貨を扱うモジュールを省略すると, ICカード乗車券用のチャージ専用機になる。電源部や制御部は共通だ。

図2●生産途中の紙幣処理モジュール
見込みで手配可能であり,テストをモジュール内で完結することで品質の確保も容易。
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 こうすることで,各モジュールをいちいち設計する手間が省けるだけでなく,生産準備にかかる手間も省ける。さらに,共通化したモジュールは見込みで生産手配ができ,顧客(鉄道会社)の注文があったときにはモジュールの在庫を用いて,すぐに組み立てられる。共通化したモジュールは需要がある程度読めるし,多少造りすぎたとしてもさまざまな顧客の製品にすぐ転用できるから,ムダにならない。

 加えて,どの顧客にも安定した納期で出荷しやすくなる。製品の基本的な枠組みは顧客によらず一定であるため,最終組み立てのリードタイムは顧客先仕様によって以前ほど大きくは変わらない。だから,さまざま顧客向けの製品を工場で混在させて造ることができる。従来は大口顧客用の製品を集中して造っている間,他の顧客の製品は後回しにせざるを得ず,納期が必要以上に延びる要因になることがあった。

 ただ,こうした短納期化や納期の安定以上に,生産現場として効果を実感できるのが品質の向上という。見込みで生産する標準モジュールの場合は,製品の組み立てに使う前に検証が済んだ状態にしておく。組立後の不具合は「よほどのことがないかぎり,発生することはない」(オムロン公共ソリューション事業部生産部部長の川井和三郎氏)。これに対し,モジュラー設計を実行する以前は,完成品を組み立てた後でようやく検証することになりがちであり,その段階で不具合が分かっても,原因の所在を切り分けるだけでひと苦労だった。