公差の見直しが必要だと分かっていても,どこから手を着けていいのか迷う場合もあるだろう。先進企業は,実際にどう公差設計を見直したのか─。ここでは,新製品で採用する位置決め機構の妥当性を検討したローランド ディー.ジー.(以下,ローランドDG)と,調整機構レスの搬送装置の実現可能性を検討したアスリートFAの2社の事例を基に,公差検討のポイントを紹介する。

待機時の位置決めを正確に

 ローランドDGの主力製品の一つである業務用の大型インクジェット・プリンタ。同社は,その新製品でヘッド駆動機構を刷新,特に待機時の位置決め機構を大きく改良した(図1)。

【図1】大型インクジェット・プリンタのヘッド駆動機構
複数のヘッドを搭載したキャリッジは,待機時にキャップユニットの上で停止する。キャップユニットには,各ヘッドがクリーニングを実施する際に排出するインクを受けるキャップトップが搭載されている。待機時には,キャリッジをキャップトップの上に高い精度で位置決めしたい。

 複数のヘッドを搭載したキャリッジは,水平に設置されたレールに沿って往復運動しながら印字するが,待機時には「キャップユニット」と呼ぶモジュールの上に,正確に停止させる必要がある。キャップユニットには,ヘッドと同じ数の「キャップトップ」という部品が取り付けてあり,待機時に各ヘッドのインク吐出口をぴったりカバーし,インクの乾燥を防いだり,ノズルクリーニングの際に出てくるインクを受け止めたりする。このため,ヘッドの停止位置がズレると役目を果たせなくなってしまう。

 そこで新製品では,キャップユニットに2本の「ガイドピン」を設置することにした。キャリッジが待機位置に移動すると,キャリッジの端面にガイドピンが当たり,これによってヘッドとキャップの相対位置が決まる仕組みである。しかし,この仕組みが量産品でも十分に機能するかどうかは,各部品の公差をどう決めるかにかかってくる。

新機構を3ステップで検討

 ヘッド駆動機構の中で位置決めに関連するすべての部品の適正公差を一気に検討するのは難しい。そこでローランドDGは,ヘッド駆動機構の公差を大きく三つのステップに分けて解析した(図2)。(1)キャップユニット内部の公差を検討(2)キャップユニットとキャリッジ間の公差を検討(3)ガイドピンを使わなかった場合の位置決め精度との比較である。

 (1)を言い換えると,ガイドピンの位置とインクを受けるキャップトップ部品の中心位置の距離が,どの程度バラつくのか,となる。ここでポイントになったのが「ガタ」の存在だった。

【図2】公差検討の概要
最終的な目的は待機時におけるヘッドとキャップトップの相対的な位置関係だが,両者の関係は複雑。そこで,(1)キャップユニット内部の公差検討(2)ガイドピンとキャリッジ間の公差検討--と段階的に検討をした後で,(3)従来の位置決め機構との比較を実施した。

 キャップトップは「キャップケース」と呼ぶ部品を介してプレートに取り付けるのだが,キャップトップとキャップケース,キャップケースとプレートの間には,意識的にガタを設けてある。キャップトップを衝撃から保護し,組み立てやすさを確保するのが主な目的である。

 しかし,あまりガタが大きいと,せっかくガイドピンによってキャリッジを位置決めしても,キャップトップとの相対位置はズレてしまう。そこで,必要なガタを設けた場合,ガイドピンとキャップトップの距離がどの程度バラつくのかを詳細に調べ,その値を把握した。

 次に(2)で実施したのが,キャップユニットとキャリッジ間の公差検討である(図3)。具体的には,ガイドピンの直径やキャリッジ端面の公差がヘッドの位置に与える影響を検討した。

【図3】ガイドピンで姿勢が決まるキャリッジ
キャップユニットに固定された2本のガイドピンが,キャリッジのV溝および端面に接触することで,相対位置が決まる。

 前述のように,キャップユニットとキャリッジの位置関係は,キャップユニットのプレートに固定したガイドピンに,キャリッジの端面が接触することで決まる。垂直に立てたガイドピンを2本としたことで,キャリッジの移動方向(左右方向)の位置だけでなく水平面内の傾きを規制し,さらにキャリッジの端面に切ったV溝に片方のガイドピンがはまり込むようにすることで移動方向と直角な方向(前後方向)の位置も決める。

 このような構造を採ったので,ガイドピンの直径のバラつきがヘッドの位置決め精度に影響する。最も大きな位置ズレが発生するのは,ガイドピンから最も遠い所にあるヘッド。キャリッジの水平面内の傾きが最大,つまり片方のガイドピンの直径が公差範囲内の最小値,もう一方が最大値となったケースだった。

 最初の公差計算を実施した際にはガイドピンには高い精度が必要と考え,丸棒の直径には,特別な切削加工を依頼しないと達成できない寸法公差を指定していた。しかし,公差計算の結果から,標準品として販売されている丸棒を購入しても目標の位置決め精度を実現できることが判明し,コストを削減できた。

 基本的に,ヘッドとキャップトップの位置決め精度の検討は,上記の(1)と(2)で事足りる。最後に行った(3)は,ガイドピンがなかったと仮定した場合との比較である。キャリッジとガイドピンの接触は考慮せず,レールやフレーム,ベースなどの公差を積み上げていった場合の位置決め精度を調べ,ガイドピン設置の効果を確認したのだ。

 以上のように,ローランドDGは段階的に公差を検討し,その都度,各部の公差が適切かどうか,確認していった。一つの機構を複数のブロックに切り分ける方法は,検討が容易になる半面,公差の変更が思わぬ部分に影響する危険性もはらむ。機構の動作や各部品の役割をしっかりと把握した上で,切り分け方を考える必要がある。