生産現場と営業との連携も必要になる一方で,逆にいえば緊密な連携動作も可能になる。もともとモジュラー設計を始めたのは「顧客の要望に応えることを,顧客の言いなりになることと勘違いしていたという反省が,一つのきっかけだった」(オムロン公共ソリューション事業部事業企画課長の田中廣介氏)。そこで,受注仕様と製品構成との関係を「見える化」し,営業部門からコンピュータで参照可能にして,どんなモジュールでどんな機能を提供できるか分かるようにした(図3)。こうすることで,営業担当者は顧客からモジュール構成に合致しない要望を受けたときに,「少し変えればもっと安く早く造れます」と代替案を提案しやすくなった。

図3●営業と設計の連携
どの仕様が決まったら,どの部品やモジュールの手配を開始できるか,を整理しておくことで,単純に顧客の要望だけを聞いてしまうことを防ぐ。
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 生産現場から見ると,仕様の決定状況に応じて先に着手できる作業のあることが分かる。「従来は2カ月半前にすべての仕様を確定させないと,納期に間に合うように生産を始められなかった」(オムロンの田中氏)。しかし現実には,仕様が決まるのは意外と遅い。仕様と製品構成の関係が分かっていれば,早く決めなければならない仕様,遅くても構わない仕様の切り分けが可能になる。このことも,最終的には納期の短縮に効いてくる。

 以上のように,モジュラー設計はものづくりのほとんどすべての工程に関係する取り組みだ。モジュールを決める開発段階,具体的案件で顧客と仕様を詰める営業段階,案件ごとに細部を決める受注設計段階,そして生産段階と,さまざまな担当者に関連する。

 従って,モジュールの決め方は特定の部署の都合だけではなく,関係する部署間で擦り合わせて,共有できるものにしておかなければならない(図4)。

図4●部門をまたがるモジュール
企画・開発,営業,設計,生産の間で打ち合わせて共通な単位を決め,固定部分とすることにより,それに関連するさまざまな作業を効率化できる。
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「繰り返し」情報の共有がカギ

 あらためて受注生産におけるモジュラー設計の特徴を整理すると,関係する部署の範囲は企画・開発から営業,設計,生産と幅広く,効果もQCDすべてに及ぶ半面,焦点を絞りにくい。しかし本質的には,一度限りの作業が多かった受注生産に「繰り返し」を持ち込むことがポイントだ。品質が安定するのも,納期をコントロールしやすくなるのも,コストを抑えられるのも,標準モジュールを「繰り返し」製作することから得られる効果といえる(図5)。繰り返しだから作業が省略でき,新たな不安定要素が混入しない。

図5●受注生産の課題に対する解決案としての繰り返し生産手法
品質,コスト,納期(QCD)のいずれについても,課題解決に向けた効果が期待できる。
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 そうすると,何を繰り返すのかについての情報を部門間でうまく共有することが,モジュラー設計による効果を得るためのカギになることが分かる。ここに,見込み生産の企業で主に使われてきたBOM(部品表)を,受注生産で使う意味が存在する。

 見込み生産でも,BOMといえば最初は資材所要量計画(MRP)の計算に用いる目的だけで用いられていた〔MBOM(Manufacturing BOM)に相当〕。最近は,設計仕様を表すEBOM(Engineering BOM)からMBOMへ情報を連携させる動きが盛んになっている3)。受注生産にも,この仕組みが応用できると考えられる。

3)木崎,「PLM,遅れて来た主役」, 『日経ものづくり』,2008年9 月号,pp.79-83.