Part2ではネットワーク設計とネットワーク機器に注目し、スマートデバイスを活用するためのポイントを紹介する。個人宅でも利用する家電量販店で購入できる製品や、中小規模の企業向けルーターを中心に見ていこう。
既存のネットワーク構成を見直す
ネットワーク設計では一般に、既存のネットワークを見直すか、ネットワークを一から作るかのいずれかになる。この特集で想定している、社員数が少なく、スマートデバイス向けのシステム変更はないというケースでは、既存のネットワークを見直す程度にとどめるのがよいだろう。
その場合、既存のDHCPサーバーをそのまま活用し、アドレスをパソコンやサーバーだけでなくスマートデバイスにも割り当てる。サブネットマスク長を24ビット(/24)にしてネットワークアドレスを設計している場合、254台の端末にアドレスを割り当てられるため、小規模なネットワークであれば大きな変更は必要ない。
ただし、導入したスマートフォンを構内電話としても利用するならば、セグメント分けの見直しが必要なこともある。同一フロアでも部署や場所によ ってセグメントを分け、異なるネットワークアドレスにしている場合、別セグメントの無線LANアクセスポイントに移ったときにDHCPサーバーからIPアドレスを取り直すことになる。すると、通信が途切れてしまう。途切れないようにするには、セグメントのエリアを物理的に広くするなどの変更が必要だ。
アクセスポイントの選定が重要
無線LAN環境を構築するときは、アクセスポイントの選定がポイントとなる。アクセスポイントには家庭向け製品と企業向け製品があり、機能や接続可能な端末数、コストに違いがある(図2-1)。
家庭向け製品は家電量販店で手に入る比較的安価な製品だ。ブロードバンドルーターと一体型のものが多い。端末数が5台以下程度など小規模なネットワークで使われることが多い。一方の企業向け製品は、インテグレーター経由で購入するのが一般的。端末数が多い中・大規模の企業では企業向け製品でなければ構築は難しい。
最近は、「家電量販店で買った無線LANルーターを1台だけ置いて補助的に使っていた企業が、スマートデバイスの導入を機に、企業向けのアクセスポイントに買い替えるといったケースがある」(大塚商会の矮松氏)など、本格的に無線LAN環境を整える動きが目立つ。
無線LAN環境の構築では、速度低下の原因となる電波干渉に特に注意したい。電波が干渉しないようにするには、隣接するアクセスポイントとチャネルを別にしなければならない。周囲でどのチャネルが使われているのかをフリーソフト(inSSIDerなど)で調べておくとよい。
家庭向け無線LANルーターに変化
家庭向け製品も企業向け製品も、最近のトレンドは“スマホ対応”だ。特に家庭向け製品はスマートフォンからの接続設定のしやすさを強化しており、多くの製品がQRコードを使った簡単設定を用意する。事前に専用アプリをスマートフォンにインストールし、製品に添付されたQRコードをカメラ機能で読み取ることで、接続に必要なSSID、暗号化方式、暗号化キーが入力される(図2-2左)。
最近ではさらに、ルーターのインターネット接続の初期設定もスマートフォンで簡単にできるようになった。
例えば、2012年5月下旬に出荷開始したロジテックの無線LANルーター「LAN-WH450N/GP」では、専用アプリとQRコードで無線LANの接続設定を完了したあと、自動的に同社のWebサイトへアクセスを試みる。「プロバイダーからDHCPでIPアドレスを割り当てられるサービスなら設定なしですぐつながるが、NTT東日本やNTT西日本のフレッツなどはPPPoE設定をしないとつながらない」(ロジテック 開発部 ネットワーク課 マネージャーの太田 直仁氏)。そこで同社では、アクセスに失敗したときはPPPoE設定の画面を自動的に表示する仕組みを用意した(同右)。ここに回線のユーザー名とパスワードを入力すると初期設定が完了し、インターネットへアクセスできるようになる。同様の仕組みはプラネックスコミュニケーションズやバッファローも提供を始めた。