「Hi Toilet、扉を開けて」「トイレの水を流して」「水を出して」。手を使わず、声だけで操作できる公共トイレが東京都渋谷区に誕生した。TBWA HAKUHODO(TBWA 博報堂、東京・港)のクリエーティブディレクターである佐藤カズー氏(Disruption Lab Team)がデザインした「七号通り公園トイレ」である。

東京都渋谷区の幡ケ谷で供用を開始した「七号通り公園トイレ」(写真:永禮 賢、提供:日本財団)
東京都渋谷区の幡ケ谷で供用を開始した「七号通り公園トイレ」(写真:永禮 賢、提供:日本財団)
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 2021年8月12日、渋谷区幡ケ谷に七号通り公園トイレが完成した。日本財団が推進するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」における12カ所目の公共トイレである。設置場所は、住宅街の一角にある細長い七号通り公園の中だ(住所は幡ケ谷2-53-5)。

真っ白な球形のトイレ。TBWA HAKUHODOのクリエーティブディレクターである佐藤カズー氏がデザインした(写真:永禮 賢、提供:日本財団)
真っ白な球形のトイレ。TBWA HAKUHODOのクリエーティブディレクターである佐藤カズー氏がデザインした(写真:永禮 賢、提供:日本財団)
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 佐藤氏は「60%の人がトイレのレバーを足で踏んで流している」「30%の人が可能な限り肘を使い、手の接触を避けている」という、欧米のある調査結果を見て衝撃を受けた。それから約3年がかりで、公共トイレのリサーチとプランニングを続けてきた。

 行き着いたのが、手を使わずに利用できるハンズフリーのトイレ開発だった。全ての動作を音声で実施できる、ボイスコマンド式の公共トイレである。

 それを佐藤氏は、AI(人工知能)スピーカーやエージェントに話しかけるイメージに重ね、「Hi Toilet(ハイ、トイレ)」と命名した。音声認識によるボイスコマンドの開発では、Birdman(東京・渋谷)が協力した。

ドアの開け閉めなどを音声で操作できる。個室内にマイクが仕込まれている(写真:永禮 賢、提供:日本財団)
ドアの開け閉めなどを音声で操作できる。個室内にマイクが仕込まれている(写真:永禮 賢、提供:日本財団)
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トイレは幡ケ谷にある七号通り公園の中にある(写真:永禮 賢、提供:日本財団)
トイレは幡ケ谷にある七号通り公園の中にある(写真:永禮 賢、提供:日本財団)
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 公共トイレは「汚い」のが大きな課題である。できれば、トイレに触りたくないと思う人が多い。さらに新型コロナウイルスの感染拡大で、ドアノブなどに触れることを嫌がる人が増えた。

 そこで音声認識技術を採用したトイレをつくり、ドアの開閉や温水洗浄便座(ウォシュレット)の操作、トイレの水洗、手洗いの指示を、トイレ内のマイクに話しかけるようにして実行できるようにした。トイレ内に音楽をかけることもできる。腸を活性化する音楽も用意している。操作性やできることは、AIスピーカーに限りなく近い。

 佐藤氏は「非接触トイレという、今までにないUX(ユーザー体験)になるだろう」と説明する。

TBWA HAKUHODOの佐藤カズー氏(写真:TBWA HAKUHODO)
TBWA HAKUHODOの佐藤カズー氏(写真:TBWA HAKUHODO)
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 トイレの設計・施工は大和ハウス工業が担当。トイレ機器はTOTOが提供している。両社はTHE TOKYO TOILETの全てに関わっているが、今回はTOTOの貢献が大きい。音声認識システムとトイレ機器を連動させることで、手を使わないトイレを実現したからだ。

 記者は現地でボイスコマンドを試してみた。個室内でまず、「Hi Toilet」と呼びかける。すると白い内壁に当たる照明の色が変わり、同時に通知音が鳴って、トイレが自分の声に反応したことを知らせてくれる。その後、便座に腰かけた状態で「トイレの水を流して」と言うと、トイレの水が流れた。ボタンやレバーを手で押さなくて済むのは、確かに画期的である。

 「腸いい音楽を流して」と言えば、何だか陽気な曲が流れてきて笑えた。これで腸が活性化されたのだろうか。使えるセリフ(ボイスコマンド)は、壁に書いてある。

 ここまで読むとスムーズに事が運んだように思えるが、実際は違う。記者はトイレの中で独り、何度も呼びかけをやり直すことになった。「水を流して」と言っても声をうまく認識してもらえず、「もう一度はっきりと話してください」と音声で返されることが数回続いた。

 声の認識しやすさには個人差があるだろう。マスク越しの声は聞き取りにくいのかもしれない。記者が、言うべき文言を間違っていた可能性もある。上記の体験はあくまでも、記者個人の例である。ぜひ多くの人に試してもらいたい。

 とはいえ個室の中で、どのくらいの声の大きさとスピードでトイレに話しかければいいのか、よく分からなかったのは事実だ。「はっきり大きな声で」とのことだが、それでも戸惑った。公共トイレの中で声を出すことは、普通ないからだ。

 手洗いは「水を出して」と言えば、確かに水が出た。「水を止めて」と言えば、止まった。便器の後ろと手洗いの下にセンサーが隠れていて、トイレと手洗いのどちらの水を流せばよいか判断しているようである。

 ただ、今どきの手洗いは、手をかざせばセンサーが反応して自動で水が出てくるものが多い。このトイレもそうだ。声で呼びかける必要があるのか、疑問が残った。声で操作するという発想は面白いが、本当に求められる機能は何なのか、これからもっと見極める必要がありそうである。

 なお、七号通り公園トイレは手で扉を開け閉めしたり、水を流したりもできる。音声操作に気づかなかったり不慣れだったりしても、いつも通り利用できる。

 音声操作をするには、トイレの入り口に表示された画面のQRコードを、自分のスマートフォンで最初に読み込む必要がある。それから入室する。つまり、スマホがないと音声操作ができない。トイレの使い勝手も改善の余地があるだろう。

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