開催が2021年に延期となった東京五輪に向け、新型コロナウイルス感染症対策に関する議論が続いている。政府の「東京オリンピック・パラリンピック競技大会における新型コロナウイルス感染症対策調整会議」は20年12月2日、6回の議事を踏まえて中間整理を公表。また、並行して10月から11月には大規模スポーツイベント開催時の課題を検証するため、プロ野球界が感染症対策に関する「技術実証」を実施した。

 感染症拡大後、政府はイベントの性格や会場規模などに応じ、開催制限の目安を設けてきた。これを受け、各所のスタジアム、アリーナなどはいずれも通常時とは異なる稼働を続けている。大規模スポーツイベント本来の集客状態で、コロナ禍を経験した観客がどう行動するかには未知の要素も多い。

 そうした中、スポーツ興行をリードするプロ野球界で、2球団とその本拠地のスタジアムが客数の規制を一時解除した。内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室の承認の下、感染予防のための技術を人数制限のない状態で使ってみるのが目的だ。3万人規模の観衆からデータを取得。今後に生かす。

横浜スタジアムにおける技術実証当日(2020年10月30日、以下同)。同スタジアムは、21年の五輪開催時には野球・ソフトボール競技の会場となる。感染症対策の知見を得るため、率先して実証に取り組んだ(写真:横浜DeNAベイスターズ)
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横浜スタジアム。国の方針に沿い、NPB(日本野球機構)はプロ野球開幕を延期。20年6月にずれ込んだ開幕時も、各球団は無観客で試合に臨んだ。以後、国は段階的に開催制限を見直し、9月には、定員1万人超の施設では収容率が50%を超えなければ人数上限なしというところにまで緩和された(写真:安川 千秋)
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ハマスタと東京ドームで実証

 「コロナ禍を経験した後の『新しい観戦スタイル』を探る。野球以外の屋内外のスポーツ、コンサートなどの娯楽にも知見を生かしてもらいたい」

 技術実証の初日となる20年10月30日、プロ野球・横浜DeNAベイスターズの本拠地を運営する横浜スタジアム(横浜市)の藤井謙宗社長は、こう語った。

横浜スタジアムにおける技術実証当日。左から、横浜DeNAベイスターズ取締役副社長の木村洋太氏、横浜スタジアム代表取締役社長の藤井謙宗氏、NECデジタルビジネスオファリング本部長の武井英治氏、LINE執行役員公共政策・CSR担当および神奈川県CIOの江口清貴氏、ディー・エヌ・エーCOO室の野上大介氏、同スポーツ事業本部システム部の武藤悠輔氏。横浜DeNAベイスターズの木村副社長は、 「今回の取り組みが、人々が少しずつでも人間らしい生活を取り戻すためのきっかけづくりになるといい」と語った(写真:日経アーキテクチュア)
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 同日時点の本来の客数上限は、収容人員3万2402人の約50%に当たる1万6000人。10月30日〜11月1日に技術実証を実施し、3日目となる11月1日の観客収容率は約86%、2万7850人に上った。満員近くに達する日も多かったスタジアムに「日常」が戻った。

 観戦時の高揚感から気が緩み、感染予防を忘れた振る舞いも起こり得る。「高精細カメラなどを使い、観客の行動や我々が気づいていなかった状況を把握するのが目的だ」と藤井社長は説明する。施設運営側には特に、従来水準の感染予防環境を客数が増えても実現できるかどうかを見極める狙いがある。横浜スタジアムと横浜DeNAベイスターズの他、神奈川県、横浜市、NEC、LINE、KDDI、ディー・エヌ・エーが連携して実施した。

横浜スタジアム。横浜DeNAベイスターズ・阪神タイガース戦の3日間を対象に、追加的な予防策を講じたうえで収容率の上限を緩和。10月30日は1万6594人(収容率51%、写真は同日)、10月31日は2万4537人(76%)、11月1日は2万7850人(86%)を動員した。なお、着席時の飛沫感染リスクに関しては、スーパーコンピューター「富岳」で解析する(写真:横浜DeNAベイスターズ)
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 神奈川県のCIO(情報統括責任者)などを務める江口清貴氏(LINE執行役員)は、「観客がマスクを外すとしたらタイミングはいつか。密になる場所はどこか。これまで運営する側が持っていた感覚値が正しかったのかどうか、データを取得して検証し、対策を講じる。その積み上げが重要になる」と説明する。

横浜スタジアムにおける技術実証(プレゼン時の様子)。要所にカメラを設置し、人流や着席・離席、マスクの有無・着脱を把握(NECが協力)。「認識」技術までの採用とし、「認証」による個人の特定はしていない(写真:安川 千秋)
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横浜スタジアムにおける技術実証。人流を把握するためにコンコースなどにカメラを設置した(写真:安川 千秋)
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横浜スタジアムにおける技術実証。顔認識自体は新しい技術ではなく、開発の歴史がある。直近では、どんなマスクの色や柄でも認識できるように解析エンジンの性能向上を図っている(写真:安川 千秋)
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横浜スタジアムにおける技術実証。スマートフォンのブルートゥース信号を検知するビーコン(電波受信機、写真中央)を場内各所に設置し、トイレや売店前の混雑状況を把握(LINEが協力)(写真:安川 千秋)
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横浜スタジアムにおける技術実証(プレゼン時の様子)。特定の場所の混雑状況は、観客自身がスマートフォンで確認できる(写真:安川 千秋)
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横浜スタジアムにおける技術実証(説明時の様子)。二酸化炭素(CO2)濃度計を設置して空気の流れ(換気)を把握(産業技術総合研究所が協力)。CO2濃度計はコンコースやダッグアウトなどの他、客席にも設置した(写真)。オープンなスタジアムでは空気が滞留する可能性は低いが、屋外環境での計測実績はないので予断を持たずに臨んだと産総研の担当者は説明する(写真:日経アーキテクチュア)
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横浜スタジアム。空気環境の把握のために風速計を増設(写真:安川 千秋)
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