THKは、従来製品に比べて負荷容量と耐久性を高めたスライドレール「ユーティリティスライド ATG形」の受注を開始した(図1)。入れ子状に組み合わせた2本のレールが前後に伸縮する「テレスコピックタイプ」のスライドレール。同社は、自動倉庫の搬送台車や鉄道、航空機分野などでの需要を見込む(図2)。
新製品は、アウターレールとインナーレール、転動体(ボール)、保持器から成る(図3)。アウター/インナーレール間に2条のボール列を設け、保持器を利用して転動体の整列状態を保ち、動作時の安定性を向上させている。アウター/インナーレールには、リニアガイド「LM形」と同じ高炭素鋼を採用し、転動溝には焼き入れ/焼き戻し処理を施した。これらによってHRCで55以上の表面硬度を確保し、許容荷重の向上と転がり疲労の改善を図っている。
併せて、溝形状も見直した。一般に転動溝の軌道面は真円弧ではなく、アウター/インナーレールと転動体の接触点(狭い領域)は転動体が回転するのにつれて変化していく。その際に、接触領域の中でボール回転中心からの半径が一定ではないための「差動すべり」が生じ、これが大きいと摩擦係数は数十倍にも増し、転動体の位置ズレの原因にもなる。
例えば、自動倉庫でコンテナを収納したり取り出したりする搬送台車の場合、スライドレールで転動体のズレが起きると、保持器がアウターレールの端に到達してもフルストロークの状態にはならず、コンテナを所定の位置に収納できなくなる恐れがある。このズレは、引き出し方向に通常より強い力を加えて修正しなければならない。
同社によると、スライドレールでは転動体とアウター/インナーレールが2カ所ずつ計4カ所で接触する「ゴシックアーチ溝」が一般的だという。だが、この溝形状は差動すべり量が大きく、転動体のズレが起きやすい。
そこでATG形で採用したのが、LMガイドと同じ「サーキュラーアーク溝」だ(図4)。これは、転動体がレール転動溝の奥部のみで接触する構造で、差動すべり量が小さく、転動体のズレも抑えられる。加えて、アウター/インナーレールに取り付け誤差があっても接触位置が移動してそれを吸収し、なめらかな回転を維持できる。
ATG形のその他の利点としては、取り付けが容易なことが挙げられる。専門のエンジニアが立ち会わずに済むため現場の作業負担が減り、作業時間も短縮できる。
アウターレールの幅が22mmの「ATG22形」、同28mmの「同28形」、同35mmの「同35形」の3種類がある。レール長さやストローク、許容荷重の異なる全23型番から選べる。受注対応品として、ATG形の転動体の代わりにホイールを用いた「ARG形」と、ラック&ピニオンを採用して転動体のズレをさらに抑えた「TPG形」も販売する(図5)。ARG形は鉄道車両のドアの開閉部やバッテリーの引き出し部分など、TPG形は航空機の旅客シートのパネルやテーブル、フットレストなどでの使用を想定している。
スライドレールは従来、主にATMや自動販売機などのスライド部に使われてきたが、負荷容量と耐久性の向上により用途の拡大が見込める。同社は、半導体製造装置や工作機械、産業用ロボットといった既存分野に加えて、物流や鉄道、航空分野などの新規分野を開拓していく狙いだ。