東レは、高い復元性と耐熱性を兼ね備える伸縮性フィルム「REACTIS(リアクティス)」の新グレードとして、回路基板用フィルムを開発した(図1)。伸縮性を持ち、さまざまな動きに追従できる「ストレッチャブルデバイス」の電子回路の実装用途を想定しており、生体センサーやロボットの触覚センサーなどに使える。伸縮させたり変形させたりしても安定した抵抗値の回路を実装可能という。既に電機メーカーなどに向けてサンプル提供を開始しており、同社は23年ごろをめどに事業化を進める。

図1 「REACTIS」の新グレードを用いた回路実装品
図1 「REACTIS」の新グレードを用いた回路実装品
(出所:東レ)
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* 東レのニュースリリース: https://www.toray.co.jp/news/details/20220322140045.html

 REACTISは、厚さ30μ~100μmの伸縮性フィルムを上下から保護フィルムで挟んだ構成。架橋成分と伸縮成分を組み合わせたポリマー設計と製膜技術により、伸縮性フィルムの高い柔軟性と復元性を両立させている。2倍の長さに伸ばしたときの復元率は、-20~+80℃の温度環境下で80%以上と、熱可塑性ウレタンフィルムより高い復元性を持つ。2倍の長さに伸ばした後、一定時間保持したときの試験でも、熱可塑性ウレタンフィルムが時間の経過とともに復元率が低下するのに対して、REACTISは60秒保持後と60分保持後で復元率がほとんど変わらない。加えて、200℃・5分間の高温処理でも溶融・変形しない耐熱性能を備える。こうした特性から、主に機械・装置部材に採用されている。

 今回、ポリマー設計と表面設計の見直しにより、REACTISの特徴である復元性と耐熱性を維持しつつ、抵抗値の安定性に優れる回路実装を実現した。伸縮性導電材料との組み合わせにより、伸び縮みやねじれ変形、3D曲面へ追従する回路実装が可能になる。

 開発品は裏面に保護フィルムを貼った構成で、表面に回路を印刷する。曲線や細かなドット状など、さまざまなパターンの印刷が可能(図2)。例えば、太さ50μmのラインと同じ太さのスペースを交互に繰り返すなど、高精密配線にも対応する。

図2 回路の印刷例
図2 回路の印刷例
(出所:東レ)
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 従来、REACTISの標準品をストレッチャブルデバイスに適用しようとすると、細線回路の印刷品質や回路の密着性に課題があった。具体的には、細線回路を印刷すると導電性材料がはじかれたり剥がれたりするケースがあり、伸縮性回路として用いるのは難しかった。そこで開発品では、表面を改質し、導電材料との密着性を向上。ストレッチャブルデバイスに求められる、変形に追従可能な伸縮性回路を形成できる。

 同社は開発品について、動作安定性を確認する試験を実施。20%の伸度で100回伸び縮みさせて抵抗値を測定したところ、抵抗値の上昇は熱可塑性ウレタンフィルム比で半分に抑えられた(図3)。さらに、85℃・相対湿度85%の高湿熱環境下で1000時間保管して抵抗値の変化を測定したところ、熱可塑性ウレタンフィルムが500時間を過ぎると形状が崩壊したのに対して、開発品は1000時間経過後も形状を保持し、一定の抵抗値を維持した(図4)。

図3 伸縮時の抵抗値安定性試験結果
図3 伸縮時の抵抗値安定性試験結果
(出所:東レ)
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図4 高湿環境下での耐久性試験結果
図4 高湿環境下での耐久性試験結果
(出所:東レ)
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 開発品をストレッチャブルデバイスの回路基板へ適用すれば、装着時の動きに追従し、幅広い温度環境下や繰り返し使用時も安定して機能を発現すると期待できる。運動フォームの解析を目的とする伸縮センサーや、ロボティクス分野向け触覚センサー、フレキシブルディスプレー、ディスプレー・半導体の工程用テープ基材といった用途を想定している。

 販売目標は、23年ごろに数千万円、25年ごろに約5億円。ストレッチャブルデバイス市場はまだ形成段階にあり、ユーザーと共に市場形成を目指すとしている。なお、国内の市場規模は、25年ごろに500~600億円の見通しという。