スウェーデンEricsson(エリクソン)は2022年7月4日(現地時間)、高速鉄道内での快適な5Gサービス提供に向けたさまざまな取り組みを紹介した。以下はその概要となる。

(出所:Ericsson)
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関連ニュースリリース: Ensuring fast and reliable 5G service delivery on high-speed trains

 最初の5G標準仕様を定めた3GPPリリース15では、時速約3km(キロメートル)の歩行者や同30k~120kmの自動車など、比較的低速な移動時通信を扱っていた。中には最高時速300kmで運行する高速列車(High-Speed Train、HST)内での低/中周波数帯を使った5G通信に関するものもあるが、2020年代後半の実用化が予定されている日本のリニアモーターカーなど、最高時速500kmを想定するHSTに向けては、新たな仕様策定が必要となる。

新仕様標準化に向けた取り組み

 3GPP標準仕様では、HSTを対象に、3.6GHzまでの低/中周波数帯(FR1)および30GHzまでの高周波数帯(FR2)における上り/下り時の最低データ通信速度と端末のモビリティーを保証する。

 リリース16では、FR1を使った、最高時速500kmでの5Gセル間ハンドオーバーや5GとLTEセル間ハンドオーバーを含む基本モビリティーを保証する。リリース17では、キャリアアグリゲーション(CA)などによる性能強化を行う予定だ。

 リリース17ではこのほか、FR2の活用も開始し、最高時速350kmでの基本モビリティーを保証する。FR2の無線伝搬特性を考慮し、車両の屋根部分に専用のユーザー機器を設置。リリース18では、CAを含むFR2での性能強化を行っていく。

FR1を活用したHSTの5G通信

 FR1では、線路沿いやその他の場所にある基地局から列車内への5Gカバレッジ提供が可能となる。線路沿いとは、線路から2m以内、その他の場所とは、線路から150m以内を想定している。

 HST通信時の課題としては、特に中周波数帯を使ったTDD方式でのドップラー偏移増大時の性能確保や、一貫したカバレッジの提供、線路沿いに設置された基地局間の途切れのないハンドオーバーが挙げられる。

 線路沿いのカバレッジ強化に向けては、SFN(Single Frequency Network)導入がある。この方法では、全ての基地局アンテナ(TRxP、Transmission Reception Points)が同じセルIDを持ち、2つ以上のTRxPから同じデータを同時に送信する。

 送信するTRxP切り替えを素早く行うためには、DPS(Dynamic Point Selection)が有効となる。この場合も線路沿いのすべてのTRxPが同じセルIDを持つが、データを送信するTRxPは1度に1つだけとなる。TRxPの切り替えは、ユーザー機器からのCSI(Channel State Information)を基にTCI(Transmission Configuration Indicator)が実施する。

FR2を活用したHSTの5G通信

 FR2を利用する場合には、列車の屋根に専用ユーザー機器を設置し、伝搬ロスを防ぎながら、モバイルルーターとして列車内の乗客にサービスを提供する。FR2ではビーム走査が必要となるため、ユーザー機器と基地局では、信号を送受信するためにTX(送信機)とRX(受信機)でビーム切り替えを行う。最適なTX/RXビームを迅速に探索するため、ユーザー機器には前方を向いたRXビームと後方を向いたRXビーム用の2つのアンテナパネルを搭載する。

 基地局配備にも、基地局を線路沿いに置く方法と、線路沿い以外の場所に置く方法がある。基地局を線路沿いに配備する方法では、列車屋上のユーザー機器から見通し内(Line-of-Sight、LoS)の通信にて、単一のTXビームとRXビームで良好な信号が得られることが確認できている。

 基地局を線路沿いに配備しない方法でも、見通しのよい場所での通信では単一のTXビームとRXビームでの通信が可能で、2つのTXビーム、3つのRXビームを使った場合に最も良い信号が得られることを確認した。

 FR2用の基地局アンテナには、単一方向のものと双方向のものがある。単一方向アンテナを採用した場合には、基地局アンテナのTRxPは線路沿いに同じ方向を向いて設置する。双方向アンテナを採用した場合には、TRxPは線路沿いの両方向を向く。双方向アンテナの場合は、列車とアンテナ間の通信距離は小さいが、ユーザー機器のアンテナパネル切り替えの際、ドップラー偏移が急激に変化する。

基地局アンテナを単一方向にした場合と双方向にした場合の違い
基地局アンテナを単一方向にした場合と双方向にした場合の違い
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 リリース17では、FR2対応ユーザー機器のアンテナパネルは一度に1方向しかアクティブにできない。異なる方向から同時に信号を受信できないため、SFNによる同時データ伝送は行えず、DPSで効率的な切り替えを行うことで性能を確保する。リリース18では、双方向のパネル動作が可能なユーザー機器を導入することで、さらなる速度改善を行っていく予定だ。

リリース18では双方向パネル動作を可能にすることで性能を改善する
リリース18では双方向パネル動作を可能にすることで性能を改善する
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次のステップに向けて

 現在、3GPPでは、FR1での時速500km、FR2での時速350kmまでの運行時に高品質な5Gサービス提供が可能な標準仕様策定を完了している。FR1を活用することでHSTでの接続性が保証され、FR2を活用することで、高速大容量通信の提供も可能となる。今後、リリース18では、マルチパネルを搭載するユーザー機器やCAによる通信速度改善、トンネル内での通信確保を含むFR2仕様の拡張を進めていく。