「DX(デジタル変革)」と「コロナ禍」。今、企業のIT活用に最も大きな影響を与えている要素である。この大きな2つの山にどう立ち向かうかが、企業の命運を左右するといっても過言ではない。今回も、調査データを見ながらこの問題について考えていこう。

DXやコロナ禍と対峙する企業が直面する3つの命題

 DXを推進し、コロナ禍も乗り切るためにはどのようなIT活用が効果的なのだろうか。この問題について、筆者の元にはユーザー企業やIT企業から様々な質問や意見が寄せられる。それらは大きく、以下の3つに集約できる。

命題1:今後のインフラ(主にサーバー)はクラウドを選ぶべきなのか?
命題2:顧客層を拡大するための新たな取り組みとして何をすべきか?
命題3:バックエンド業務の自動化をどのように進めていけばよいのか?

 今回は、この3つの命題について調査データを見ながら考察していくことにする。なお、掲載するデータは、いずれもコロナ禍の発生後に実施された調査の結果である。

命題1 クラウド一辺倒ではなく、オンプレ+HCIも検討を

 まず、命題1「今後のインフラ(主にサーバー)はクラウドを選ぶべきなのか?」について、調査データを手掛かりに考えてみよう。

 次のグラフは年商500億円未満の企業700社を対象としたアンケートの結果である。「過去3年以内に導入したサーバー」と、「今後3年以内に導入予定のサーバー」について、オンプレミス(サーバー機器を購入して、社内やデータセンターに設置)とクラウド(IaaSまたはホスティング)のどちらの形態かを尋ねた。

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 「過去3年以内に導入したサーバー」では、クラウドとオンプレミスの差が16.3-13.0=3.3ポイントであるのに対して、「今後3年以内に導入予定のサーバー」では、12.4-6.4=6.0ポイントと広がっている。今後、「クラウドファースト」の傾向が強まることが予想される。

 だが、本連載の「第102回 ハイパーコンバージドインフラの普及は、必然の流れである」(※1)でも述べた通り、オンプレミスのサーバーについてはHCI(ハイパーコンバージドインフラ)の活用にも注目が集まっており、これも見過ごせない。

 「社外に配置できないデータがある」「IaaSほどの“伸縮性”を必要としていない」などの理由でオンプレミスを選びたいが、データやアクセスが増加した際の拡張性は担保し、かつ、SAN(ストレージエリアネットワーク)のような煩雑な運用は避けたい。そんな場合には、オンプレミス+HCIも有力な選択肢となる。

 DXの取り組みには試行錯誤がつきものであることから、インフラを所有せずに済むクラウドが適していると言われることも多い。コロナ対策の観点からも、IT部門の在宅勤務を進めるにはクラウドの方が負担は少ないだろう。だが、安定期に入ったシステムの中には、オンプレミスの方がコスト面で有利なケースもあるかもしれない。

 「命題1」の答えとしては、「DX/コロナ禍のインフラ」=「クラウドファースト」と拙速に決めてしまわず、所有しないことのメリット/デメリット、対象となるシステムの種類や運用フェーズなどを加味して検討することが大切、と言えるだろう。

命題2 「商談のオンライン化」実現がカギ

 命題2「顧客層を拡大するための新たな取り組みとして何をすべきか?」の答えを探る手がかりとして、顧客開拓で重要な役割を果たすCRM(顧客情報管理)に関する企業の課題感を確認してみよう。次のグラフは、CRMを導入済みの年商500億円未満の企業に対し、CRMに関する現状の課題を尋ねた結果である。

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 多くの企業は、CRMを既存の基幹系/情報系システムに追加する形で導入してきた。そのため、CRMと既存システムとの連携は大きな課題だった。顧客層を拡大するためには、メールやSNSでアプローチし、それらを見た“顧客候補”がアクセスしてくる「ランディングページ」をWebサイト上に整備し、店舗とオンラインの顧客管理を統合するといった、新たな取り組みも必要になってくるからだ。

 ところが、コロナ禍で状況は大きく変わった。顧客とオンライン/リモートで商談するニーズが一気に高まったのだ。Web会議のクラウドサービスも多数存在する今、顧客と遠隔で対話すること自体は容易だ。しかし、CRMシステムで管理する顧客情報や案件情報と密に連携させながらオンライン/リモート商談を進める仕組みは、まだ十分とは言えない。実際、このグラフでも、CRMに関して「オンライン/リモート商談のサービスと連携できない」「オンライン/リモート商談を行える機能がない」が課題として多く挙がっている。

 CRMとオンライン/リモート商談との連携は、コロナ禍への対応だけでなく、DX推進の観点からも重要だ。経産省が2020年12月に公表した「DXレポート2」では、単にレガシーマイグレーションを実施するのではなく、顧客起点で業務システムを見直すことの重要性を指摘している。複数のシステムを連携させて顧客情報を一元的に管理することは、その第一歩と言えるからだ。

 従って、「命題2」に対する答えとしては、CRMと緊密に連携しながら、オンライン/リモートで商談を行える仕組みを整備することが重要、ということになるだろう。

命題3 「在宅勤務対策」ばかりに目がいっていないか

 命題3は、「バックエンド業務の自動化をどのように進めていけばよいのか?」である。売上報告、顧客から紙で受理した申込書の処理といったバックエンド業務の自動化は、DXの一環、特に人材不足対応やペーパーレス化の取り組みとして位置づけられることが多い。

 だが命題2と同様、命題3もコロナ禍の影響で状況が変わってきている。ここで、自動化の手段として、既に多くの企業が高い関心を持っているRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)についての調査結果を見てみよう。次のグラフは、年商500億円未満の企業に対して、RPAを適用したい場面や用途を尋ねた結果である。2019年(コロナ禍以前)と2020年(コロナ禍以後)の結果を比較した。

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 6つの選択肢のうち、上段の3つはデータ転記の作業を自動化するという、比較的単純なものだ。これに対し下段の3つは、データを集約/加工する高度な処理の自動化である。

 ここでは示していないが、2018年~2019年にかけては、データ転記からデータ集約/加工へとRPAの適用範囲が拡大/高度化する兆候がみられた。だが、このグラフが示すように2019年~2020年にかけてはデータ転記の割合が高くなり、データ集約/加工が減っている。これはコロナ禍による在宅勤務の増加により、出社が必要なデータ転記を少しでも減らす手段としてRPAを活用しようとしていることが大きな要因だ。

 DXの観点から言えば、RPAの適用範囲がデータ転記からデータ集約/加工へ、さらには業務フロー全体へと拡大し、企業活動全体が効率化されていくことが望ましい。しかし、コロナ禍によってデータ転記が優先され、こうした進歩が停滞しているのが今の状況と言える。

 従って、「命題3」の答えは、在宅勤務に伴うデータ転記だけでなく、データ集約/加工などの高度な自動化にも(再び)目を向けることが大切、となる。

 RPAを活用した自動化については本連載の「第96回 アフターコロナのRPA、導入するなら一石二鳥作戦で」(※2)でも詳述しているので、併せてご覧いただきたい。

DXとコロナ禍、どちらに重点を置くべきか?

 これまでの考察を元に、3つの命題に関するIT活用と、DXおよびコロナ禍の関係を俯瞰(ふかん)してみると、下図のように整理できる。

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 この図の下部はインフラ(主にサーバー)の状況を表しており、左側がオンプレミス寄り、右側がクラウド寄りを示している。全体としてはクラウドファーストが進みつつあるが、命題1で述べたようにオンプレミス+HCIといった選択肢も含めて、適切に使い分けることが肝要だ。

 命題2のCRMはもともとSaaS形態での利用が多かったこともあり、この図では右側のクラウド寄りに位置している。だが、単にWeb会議を導入すれば良いわけではなく、DXレポート2で提唱されている「顧客起点のシステム改善」を実現するためには、他のオンプレミスの業務システムも含めた連携が必要になる。

 命題3のRPAでは、SaaS形態もすでに存在するものの、現段階ではオンプレミスでの導入/運用が比較的多いことから、オンプレミス寄りに位置している。だが、コロナ禍に伴う在宅勤務対応を意図した自動化がさらに広がれば、クラウドへのシフトが進むと予想される。逆に、DXの観点から業務フロー全体の自動化を担う役割が重視されるようになれば、オンプレミス寄りの位置にとどまる可能性もある。

 このように俯瞰してみると、企業がDXとコロナ禍という2つの山を乗り越えようとする場合、どのような目的でどちらに重点を置くかによって、業務システムの役割やクラウド/オンプレミスの選択などが変わってくることがわかる。ここが曖昧なままだと、IT活用の方針が迷走しかねない。それを防ぐためにも、全体を俯瞰するこのような図を描き、常に共有/確認することは非常に大切だと筆者は考える。

 さて、2011年12月に掲載を始め、長らくご愛読いただいた本連載だが、今回で一旦の区切りとさせていただくこととなった。これまで様々なテーマでIT活用のポイントを述べてきたが、できる限り中長期的に役立つ内容となるように心がけてきたつもりだ。折に触れて本連載をひも解いていただき、今後の参考としていただければ幸いである。

岩上 由高(いわかみ ゆたか)
ノークリサーチ シニアアナリスト、博士(工学)
岩上 由高(いわかみ ゆたか) 早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻卒業後、ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ベンチャー企業などでIT製品およびビジネスの企画/開発/マネジメントに携わる。ノークリサーチでは技術面での経験を活かしたリサーチ/コンサル/執筆活動を担当。