ERP(統合基幹業務システム)最大手の欧州SAPが、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)を強化している。その目玉の1つが2019年中にも開始するデータベース(DB)のPaaS「SAP HANA Cloud」だ。SAPのインメモリーDBを中核としたプラットフォームである「HANA」をSAP自身がクラウドサービスとして提供する。
SAPのパートナー企業がオンプレミス環境向けのHANAをAmazon Web Services(AWS)などのクラウドサービス上に搭載しPaaSとして提供しているサービスはこれまでも存在したが、HANAをSAPが自らクラウドサービスとして提供するのは初めてだ。
HANA Cloudの狙いは「企業内には様々な種類のDBが存在する。それをHANA Cloudで統合することだ」とSAPジャパンの椛田后一プラットフォーム&テクノロジー事業本部SAP HANA CoEシニアディレクターは説明する。「HANA Cloudにアクセスすれば他社のDBも含めて、企業が持つすべてのDBに格納しているデータを検索したり、分析したりする機能を提供していく」(椛田シニアディレクター)ことを目指す。
そもそもHANAはメモリー上にデータを展開することで、OLTP(オンライントランザクション処理)とOLAP(オンライン分析処理)の両方を高速化することが特徴のDBだ。インメモリーに加えてデータの格納方式にカラム型を採用し処理性能を向上する。製品化当初はデータウエアハウスの高速化などの用途が主だったが、SAPのERPパッケージ「S/4HANA」の動作基盤として現在は利用されている。
一方でHANAは処理が高速なものの動作に大量のメモリーが必要になることから、専用のハードウエアやIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)は高価になりがちだ。そのため企業内のデータを統合する基盤に利用するには価格の面から現実的ではなかった。
HANA Cloudはこうした課題を克服するため「企業のあらゆるDBを統合できるアーキテクチャーを採用している」と椛田シニアディレクターは説明する。データの仮想化機能などを利用することで、インメモリーDBの高価なメモリーの容量を抑えつつ多様な格納先のデータを透過的に利用できるようにするという。
メモリー以外にデータを格納
HANA Cloudが目指すのはインメモリー以外の手段も組み合わせて、大容量のデータを一段と管理しやすくすることだ。HANA Cloudが採用している方法は大きく3つある。
1つめの方法はカラム型のDB「IQ」を利用した「Relational Data Lake」の提供だ。IQはSAPが以前買収した米サイベースが開発したDBだ。HANA Cloudは管理機能を利用して頻繁に利用するデータはインメモリーに、分析などに利用するのみのデータはIQに格納するといった使い分けができるようにした。