売り上げ拡大や従業員の生産性向上を図るため、デジタル技術で事業を変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)」に取り組む日本企業が増えている。とはいえ、目覚ましいビジネス成果を上げているところはほとんどない。
「DXに本気で取り組み、目覚ましい成果を上げている」との割合が1.2%――。日経BP総合研究所イノベーションICTラボが上場企業など1万社を対象に独自に実施した「デジタル化実態調査」(有効回答数は約900社)で判明した事実である。
DXでビジネス成果が上がらない理由の1つは、DXについて勘違いしている社長の存在である。その典型パターンを見てみよう。 ->
「デジタルはよく分からない」とDXを現場に丸投げ
日本企業の経営トップにありがちなことは、「ITやデジタルについて詳しくないので、DXも現場に任せた」としてしまうケースだ。DXとは、デジタル技術を活用した変革のことであり、ビジネス強化のために取り組むべき組織風土改革にほかならない。AI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)などの技術導入は手段であって目的ではない。
DXは現場に丸投げ――。こうした姿勢の経営トップは、変革そのものに取り組む気概や力量がなく、経営者失格の烙印を押されても仕方がない。
デジタル化実態調査では、経営者の4割が「DXを現場任せ」であることが判明した。経営トップが「(DXプロジェクトの)重要性を理解し、DX戦略をリードしている」との回答が14. 4%だったのに対し、「重要性を理解しているものの、現場任せ」とする回答は41.6%だった。
経営トップがデジタル技術に精通する必要などない。だが経営トップは、自社のDX戦略の中身を見て、デジタル技術を使った変革の目的や施策の本質を見極められないようではまずい。
「AI導入やクラウド活用、ビッグデータ分析を強化」というIT施策だけを列挙しているDX戦略を社内で承認している経営トップの下では、DXでビジネス成果を上げることなど不可能だろう。DX戦略は、ビジネス戦略に連動したシンプルな内容であるべきだ。
デジタル技術を導入する目的、具体的な成果物、成功基準についてCIO(最高情報責任者)ときっちりと議論して、売り上げ拡大や業務の超合理化のために必要な投資を中長期的な視点で意思決定する――。こんな経営トップが今、求められている。