昨今、経営方針として「『モノ売り』から『コト売り』への転換」を掲げる企業が増えてきた。多くの企業がマーケティングの変革に挑もうとしていることの表れともいえる。しかし、思い描く理想形に実態が伴わない例も少なくないようだ。いったい何が原因なのか。コロナ禍によるビジネス変革も問われている中で、企業の経営者はどこから手をつければよいのか。

 BtoBマーケティングの専門家で、8月に刊行した書籍『BtoBマーケティング偏差値UP』(日経BP)の著者であるシンフォニーマーケティングの庭山一郎氏と、複数の企業でマーケティングの経験を持ち、現在はマクニカで全社マーケティングを率いる堀野史郎氏に、これから企業がマーケティング変革のために取るべき次の一手について、オンライン対談で語り合ってもらった。

(聞き手は松本 敏明=日経クロステック Active、
記事構成は赤坂 麻実=ライター)
庭山一郎氏(左)と堀野史郎氏(右)
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「『モノ売り』から『コト売り』への転換」を目指しながら、実際には思うにまかせない企業が多いようです。そうした企業に共通の問題点があるとしたら、どんなところですか?

庭山:コト売りへの転換という戦略そのものは正しいと思います。プロダクトが成熟した市場では性能差を出しづらいため、モノ売りで受注を獲得しようとすると、極端に安価あるいは極端に短納期など、好条件を提示するしかありません。受注できたとしても利幅が小さく短納期の厳しいビジネスですから、そこから脱却したいと考えるのは当然です。

庭山一郎(にわやま・いちろう)
シンフォニーマーケティング 代表取締役
1990年シンフォニーマーケティングを設立。1997年よりBtoBにフォーカスした日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。製造業、IT、建設業、サービス業、流通業など各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティングサービスを提供している。海外のマーケティングオートメーションベンダーやBtoBマーケティングエージェンシーとの交流も深く、長年にわたって世界最先端のマーケティングを日本に紹介している。2020年8月に『BtoBマーケティング偏差値UP』(日経BP社)を刊行。中央大学ビジネススクール客員教授を兼ねる(撮影:シンフォニーマーケティング)

 では、なぜコト売りへの転換ができないのかといえば、経営者の“勘違い”に一因があるように思います。コト売りのビジネスが、営業担当者のマインドや技術に依存すると考える経営者が多いようですが、それは誤りです。コト売りの本質は「時間軸」にあります。

 モノ売りでは、購買側(顧客)が新規ビジネスを決定し、その事業に必要な技術を見つくろって候補のプロダクトを絞り込み、その後でベンダーを説明会に集めます。ベンダーはここで渡されたRFP(提案依頼書)を満たすプロダクトを用意して低価格や短納期といったところで競い合う、というのが一般的です。

 それがコト売りでは、顧客がRFPを書く以前、理想的には2~3年前からコンタクトを取り、自分たちができることを訴え、課題解決を提案していきます。そのためには、顧客の奥深くで発芽したばかりの課題やリスクを見つけるすべを持たなくてはなりません。コト売りとはつまり、精度の高い「デマンドセンター(商談を創出するマーケティングの仕組み)」を持って、初めて取れる戦略なんです。

 ある顧客に人事給与システムを提供しているベンダーの例で考えてみましょう。ここで顧客の経営者が社内で「今後はタレントマネジメントの仕組みを導入しよう」と言い出したときには、経営企画室などの組織にその実現のための動きが出てくるはずです。社員が関連セミナーに参加したり、資料に当たったりするのです。

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