前回は、「問題を構成する5つの要素」の4つめの要素である「制約条件」の定義と、私の制約条件にまつわる体験を紹介した。値引き権限の上限にとらわれて逃してしまった商談をきっかけに、制約が「自らの思い込み」であると気づいた私が、独自の判断で権限を越えた値引きを繰り返すようになったところまでお話しした。

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(出所:123RF)
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「『半値八掛け二割引き』でようやくトントンかな」

 前回の話から数年後、私は我が社として初となる「DNAの合成受託サービス」の開発・販売に携わっていた。国内の某企業とジョイントベンチャー(JV)を立ち上げたこのサービスで、営業担当の私は販売戦略を任された。最初は「とんでもないサービスを押しつけられた」とぼやいたが、30社がひしめいていた市場に最後発で参入してから2年半でシェア3割を獲得し、5年後にはシェア5割を超えるところまでビジネスを成長させた。

 このとき競合会社は、こぞって大口案件(1回の注文単位が数十本以上のDNA合成)を狙って、半額近い値引き合戦に明け暮れていた。しかし私は、競合が見向きもしない小口(1回の注文単位が2~3本のDNA合成)だけに絞り、全ての合成DNAに製造品質管理データを提供することを切り札に、販売代理店と地道に顧客を開拓していた。

 これが功を奏し、我が社のサービスは、「高価格でも値引きを一切しない、しかし業界で唯一、研究者が安心して使える」というブランドを確立した。大口案件の声が掛かっても、丁重にお断りするか、値引きなしの高額な見積書を提出することで、値引き競争からは距離を置いていた。

 そんなある日、ハードウエアメーカー(仮にQ社とする)から「年間で5万本を超えるDNA合成」という大口案件が飛び込んできた。既に10社以上が見積もりに参加して、値引き合戦を繰り広げていた中で、トップブランドだった我が社にも声がかかったらしい。

 値引き合戦に参加するつもりは毛頭なかったが、この分野からはかけ離れた存在に見えたQ社が、いきなり当時の国内最大級の規模で遺伝子研究に取り組み始めたことに興味を持った。Q社を訪問する前に、社長に仁義を切っておいた。

私:あのQ社で、合成DNAの大口案件があるそうなので、話を聞いてきますね。

社長:うちは値引き合戦には参加しないわよ。

 話をするそばからピシャリと釘(くぎ)を刺されたが、私の中では社長の言葉を「制約条件」としては受け止めていなかった。「どうせ後付けで、社長が承認するような経営戦略的な意義をひねり出せば済む」くらいに思っていた。

 訪問してみると、Q社の遺伝子研究プロジェクトへの投資は本格的であることが分かった。ハードウエア企業らしく「新しい遺伝子解析装置」の開発のために、研究施設や設備、装置、研究者をそろえ始めているという。

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