前回は私の「モグラ叩き」的な行動とお客さまの工場での体験から、「対症療法」ではたどり着けない「問題解決の科学」の片鱗(へんりん)を紹介した。ただ、工場で実際に使った「制御変数」などの専門的な用語の説明は省略し、「問題解決の科学」がもたらす「効果と効能」の解説にとどめた。
今回も私の体験を基に、「問題解決の科学」で取り扱う概念やフレームワークをひも解いていく。

科学って何だ?問題って何だ?
失敗談の前に、「問題解決の科学」と標榜(ひょうぼう)する以上は、「科学」の定義を共有しておきたい。「科学」は文脈に応じて多様な意味を持つ言葉だ、この連載でいう「問題解決の科学」とは、「組織における問題発見と解決の手法」のことだ。いわゆる学問のことではない。
もう少し言葉を加えて定義すると、「こうすればこういう具合に失敗した(あるいはうまくいった)という私の体験を集め、その原因と結果の因果関係の探究によって確立した、問題を解決する知識体系のこと」となる。今も失敗は続いていて、現在進行形で発展している途中なのだ。
続いて「問題」の定義を考える。私が「問題とは何か」を意識するようになったのは、前回とは別の失敗体験からだった。
営業部長という立場だった私は、当時のはやり言葉に乗って「我が社は(お客さまの問題を解決する)ソリューションプロバイダーです」「我々は提案型営業をしています」などとお客さまに話していた。しかし実際は、ソリューション営業にはほど遠く、用意された「ソリューションという名が付いた製品パッケージ」を売るだけだった。
それでも提案型営業を名乗った手前、お客さまの問題は知っておきたい。営業担当者に「問題」を聞き出してくるよう発破をかけた。
こうして集めた情報は、ほとんどがお客さま個別の愚痴や不平や不満。さらには「お宅の製品が高いのが問題だ」と判で押したような報告ばかりだった。営業担当者は「うちの製品が高いっていう問題への解決策は、値引きしかありませんなぁ」などと、私をからかう始末だった。