前回は、30年ほど前の私が、親交のあった研究者Oさんが着任するQ社の研究所新設に食い込んで、億円台の商談を進めていたときの話をした。今回は、人生を賭けた「椅子取りゲーム」に直面したOさんに、私が日本にまだないDNAシーケンサーを使って96時間以内にデータを出すための段取りを迫られたところからの続きとなる。

前回の続きから始めたいところだが、その前に本題の「問題解決の科学」に話を戻す。「問題を構成する5つの要素」の1つめの要素である「意思決定者(decision maker)」について確認していこう(「問題を構成する5つの要素」については、前回をご覧いただきたい)。
意思決定者(decision maker)とは何者か
意思決定者とは、問題(設定してある目標と現状との、対策をして克服する必要のあるギャップ)を解決することで、目標の達成を目指す人だ。問題の解決を言い換えると、「意思決定者の目標(目的)達成のために、可能な限り最適な解決策(手段)を選択すること」となる。
ここで重要なのは、1つの問題に対する意思決定者は1人とは限らないということだ。そこで自分があるお客さまの問題に関わったときの目標を、3つに分類してみる。
(1)自分の目標(意思決定決定者が自分)
(2)お客さまの目標(意思決定決定者がお客さま)
(3)2人以上の目標(意思決定者が1人ではない)
前々回で私は、お客さまの目標(2)が何かを確かめないまま、自分の目標(1)である「解析システムの異常を正常に戻すこと」こそが、お客さまの目標と同じであると取り違えしまった。このときは、意思決定者であるお客さまの目標を知ることが、問題解決のために重要であることに気がついた。
今回の事例では、意思決定者でお客さまであるOさんの目標(2)が「業界最高水準のバイオ研究所を作ること」であると、相談を受けた時点で聞き出せている。
(1)自分の目標
それまでの経験から私は、「自分にとっての目標は、どうやら2つあるらしい」ということに気づいていた。1つめは「正常に戻す(修理する)」という目標。機器の故障などで異常があった場合や、製造工程の品質を管理する場合がこれに当たる。