経済財政・再生相が2020年7月26日の記者会見で、在宅勤務を7割にすることについて再徹底を経済界に求める考えを示した。弊社の取引先のほとんどは、緊急事態宣言が解除後もずっと在宅勤務を続けている。商談はもちろん、請け負っている研修もWebを介して行うこととなった。「3密」を避けるために4月以降全面ストップしていたが、悪戦苦闘し4カ月がたった今、Web研修の実績もできた。現在、積極的に取引先に提案を始めている。

 Web研修を企業へ提案することで、在宅勤務故の課題に気付いた。顧客企業の研修は計画通りにできていない。弊社が「Webならこんなふうにできます」と提案すると、反応は2つのパターンに分かれる。

 1つは「渡りに船」派。受講者全員が在宅勤務、かつWeb研修の経験がないことをものともせず、研修事務局の担当者が自らリハーサルを行って、年初の研修計画をやりきろうとする企業だ。もう1つは「延期、もしくは中止」派。グループ討議が難しい、売り上げの落ち込みで研修費を削減することになったなど、さまざまな要因で延期・中止の判断となるようだ。

 ただ、懸念を感じることがある。「今は在宅だから、延期できるものは延ばそう」という考えについてだ。筆者の勝手な思い込みならよいのだが、「無理をすることはない」と、気が付かないうちに積極性が低下しているのではないか。

 研修は先延ばししても、すぐには影響が出ないかもしれない。だが、ものづくりに直結する職場は異なる。「在宅だから先に延ばそう」という考えでは、品質不具合や採算悪化へまっしぐらだ。

 現在、開発設計者も多くは在宅勤務と聞く。筆者の経験を振り返ると、開発期間が半年でも2年あっても、毎日が戦場だった。ものが高機能化・複雑化しても、開発ツールが進化しても、開発設計職場は大きくは違わないだろう。

 「在宅勤務の心得」について第68~70回で取り上げた。「ボルト1本の重み」と「現場班長とのコミュニケーション」、「先輩の背中」がキーワードであった。ここでは、4つ目の心得として「専門家の知恵を取り込む」を取り上げる。

新規性が高い製品に必須の知見

(出所:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 「革新的な製品」や「次世代製品」は、新技術や新構造などを持つ新規性の高いシステムや製品だ(第22回)。このような製品の開発では、専門家の知恵を取り込むことが大切だ。「新しい技術や構造」といっても、多くの場合、「既存の材料や加工方法の組み合わせ」で成り立つ。在宅勤務でも材料や加工方法の専門家に意見を求め、指摘事項は抜けなく設計処置を取る。避けては通れない。

 知恵を取り込む場として「材料・加工専門分野検討会」の進め方について取り上げよう。実施のタイミングは、試作図面が出来上がった段階(下記のステップ1)で説明会を開く。試作品手配までが望ましい。メンバーは、材料や加工分野で関係する要素技術(鉄鋼・非鉄や樹脂、ゴム、セラミック、プレス、樹脂成形、はんだ、表面処理、組付け、巻き線、電子材料など)の専門家だ。

 次の4つのステップで実施する。

ステップ1(説明会):設計が、開発背景・仕様・構造・新技術などを説明する。試作図面を共有する。

ステップ2(指摘):専門家が試作図面への懸念点や改善点を設計へフィードバックする。例えば、「樹脂部品のこの寸法には市場での収縮を見越し、アニーリング処理すること」「回路パターンめっきはピール強度を図面へ追記すること」など。

ステップ3(報告会):設計が、専門家から受けた指摘事項の処置について報告する。耐久評価で時間の要するものは計画を報告する。また、書面(データ)で残すことを心掛ける。

ステップ4(決裁会):ステップ3で計画のみを報告した案件は、処置結果を出図前決裁会議で報告して決裁を受ける。

 材料・加工専門分野検討会は、部門横断型のクロスファンクショナルチーム(CFT)活動だ。(第43回)。異分野の専門家がチームを組んで課題解決に取り組む活動である。異分野の専門家同士がコラボレーションすると、異なる分野の知見が互いに影響し合い、新たに有用な知見が見いだされる可能性が高まる。

 在宅勤務であってもCFT活動をおろそかにしてはいけない。ただし、上記の例から分かる通り、在宅だけで全てが対応可能とは限らない。チームで工夫することが必要だ。「在宅だからこれぐらいでよいだろう」というのは許されない。市場品質不具合というしっぺ返しで答える。自然が相手のものづくりはどこまでも手ごわい。

寺倉 修 氏 (てらくら おさむ)
ワールドテック 代表取締役
寺倉 修 氏 (てらくら おさむ) 実務経験に基づく真の「設計力」を定義し、実践的設計論を説く設計分野の第一人者。 1978年、日本電装(現 デンソー)入社。車載用センサーおよびアクチュエーターの開発、設計業務に従事。日本初のオートワイパー用レインセンサー開発、高級車「レクサス」への搭載を実現したほか、20種類以上の車載用センサー、アクチュエーターを開発・設計。 2005年、ワールドテック設立。製造業への開発・設計・生産などの技術を支援。2010年、東京大学大学院経済学研究科 ものづくり経営研究センター(MMRC)コンソーシアムで「モノづくりを支えるもう一つの力『設計力』」と題して講演。企業活力研究会「平成22年度 ものづくり競争力研究会」委員。 2014年、東京大学大学院経済学研究科 MMRCコンソーシアムで「『設計力』を支えるデザイレビュー」と題して講演。著書に『業界No.1製品をつくるプロセスを開示 開発設計の教科書』(日経BP)などがある。