ものづくりの世界で不祥事が続く。筆者はこの種の報道を見聞きしても、かつてほど驚かなくなった。そんなことがあったかと思い出すのに一苦労だ。このような思いは筆者だけではないだろう。

 記憶のかなたはともかく、不祥事の報道に驚かないことがより深刻な事態だと思う。「日経ビジネス」の8月16日号の特集で不祥事と社風を取り上げていた。問題がなくならないのは、それぞれの企業が持つ社風にあるのかもしれない。社風は、組織風土と企業文化から成る。その風土や文化などが問題ではないか、という切り口であった。

日本の製造業で品質関連の不祥事が続く
日本の製造業で品質関連の不祥事が続く
(作成:日経クロステック)
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 筆者は、社風や風土・文化の違いを論じる知見は持ち合わせていない。しかし、不祥事として取り上げられるような品質不具合は、職場の雰囲気が関係していると思う。この雰囲気を、ここでは風土と呼ぶこととする。

 さらに付け加えると、風土とは「その組織に所属する多くの人に共通したものの見方や考え方。長い年月をかけて培われ、組織に深く根ざした目に見えない空気のようなもの」。「働く人たちの倫理観はおおむね、風土に左右される」と捉えている。

 風土とは、異論を覚悟であえて言うと「倫理観の源」と筆者は考える。倫理観がしっかりとしていれば、手抜きは起こり難いであろう。手抜きをしないとは、それぞれの場面で100%を目指して取り組むということだ。

 職場を構成する各人の職能に対して取り組む業務のレベルがスタンダード(標準)、ハイ(高度)、スパー(優秀)などさまざまであっても、持てる力を100%出し切っていれば、その人やその職場はモチベーションが高いといえる。モチベーションが高ければ、不祥事に関係するような品質不具合は起こり難いであろう。

 風土が倫理観に影響し、モチベーションを大きく左右する。風土は長い年月をかけて醸成される空気のようなものなので、さまざまな要因が絡んでいるに違いない。

叱責された苦い経験

 筆者は仕事柄、「モチベーションを上げる要因は」との問い掛けをしばしば受ける。そのときは、特にこれだけは伝えたいとの視点から、「あなたは組織の『長』ですか」と返す。なぜなら、組織の長が職場の風土を決める最大の要因とみているからだ。

 長と付く全ての人のありようが、職場の風土を形づくっている。係長、課長、部長、事業部長、そして社長。もちろん現在の長だけではない。創業以来の長のありようの積み重ねが、その職場の風土だ。

 経験を1つ紹介したい。以前所属した会社に入社した当時、筆者は設計職場に配属された。所属長への印象は、「ダンディー」「かっこよい」というものであった。しばらくして、新製品の開発チームへ異動した。後に、その新製品で新たな事業部が誕生した。フロアが近かったこともあり、その長の仕事ぶりが伝わってきた。技術課題でメンバーが悩みに悩んでいる時は、車座となりメンバーと一緒に悩んで考え抜いた。

 このコラムで何度か取り上げたが、ものづくりは自然が相手だ。時間が来たからと言って、職権でえいやと決めるものではない。理論で説明し、試験・実験で検証ができて初めて「よし」となる。「これぐらいでよいだろう」という妥協は、品質不具合へまっしぐらだ。

 これに対し、その長は、メンバーの報告の足らないところを見抜く眼力があった。穏やかだが、すごみも備えていた。このような長がいればメンバーは手抜きはできないし、やらないであろう。モチベーションはおのずと高まる。不祥事になる品質不具合とは縁遠い職場のはずだ。

 ところで、不祥事が起こると多くの場合、担当者や担当職場がうんぬんと報道される。しかし、担当者が常に間違わなければ管理者は必要ない。

 筆者が管理者になりたての頃のこと。業務遅れの理由を上司から聞かれ、苦し紛れに「担当者が……」と言ってしまった。言い終わる間もあらばこそ、ひどく叱責された。曲がりなりにも長であったのに、責任を逃れようとしたからだ。部下のせいにしてはならないという当たり前のことを、身に染みて思った。このような経験は何年たっても忘れようがない。

 担当者が品質不具合を出したら、それは所属長の問題。当たり前のことだ。その所属長を選んだのはさらに上の所属長だ。結局、長のありようが、今の事態を引き起こしているのでなないか。

 今一度、長として、職場の風土やモチベーションにどのような影響を与えているか、自らを振り返ることが大切だ。

寺倉 修(てらくら おさむ)
ワールドテック 代表取締役
寺倉 修(てらくら おさむ) 実務経験に基づく真の「設計力」を定義し、実践的設計論を説く設計分野の第一人者。 1978年、日本電装(現 デンソー)入社。車載用センサーおよびアクチュエーターの開発、設計業務に従事。日本初のオートワイパー用レインセンサー開発、高級車「レクサス」への搭載を実現したほか、20種類以上の車載用センサー、アクチュエーターを開発・設計。 2005年、ワールドテック設立。製造業への開発・設計・生産などの技術を支援。2010年、東京大学大学院経済学研究科 ものづくり経営研究センター(MMRC)コンソーシアムで「モノづくりを支えるもう一つの力『設計力』」と題して講演。企業活力研究会「平成22年度 ものづくり競争力研究会」委員。 2014年、東京大学大学院経済学研究科 MMRCコンソーシアムで「『設計力』を支えるデザインレビュー」と題して講演。著書に『世界No.1製品をつくるプロセスを開示 開発設計の教科書』(日経BP)などがある。