ネットワークを動かす基本原理であるプロトコルは、ネットワーク技術の進歩と共に移り変わってきた。だがそこには、電気通信の黎明(れいめい)期に作られた規格のエッセンスが今なお息づいている。新しい技術の本質を捉えるためにも、懐かしのプロトコルを振り返ってみよう。

 HDLCは、米IBMが開発した独自プロトコルであるSDLCをベースに、ISO(国際標準化機構)が標準化したデータリンク層プロトコルである。基本的な仕組みはSDLCと同じだが、様々な改良が加えられている。バイナリーデータを透過的に伝送するビット指向のフレーミング技術としては、HDLCで完成を見たと言える。実際、WAN系のデータリンク層では、今でもHDLCを使うケースが少なくない。

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今の通信に合わせて仕様を変更

 HDLCのフレーム構造はSDLCとほぼ共通している。SDLCからの変更点は、バイナリーデータを運ぶフィールド(情報部)を、1ビット単位の可変長にしたことである。SDLCも可変長データを運べるが、8ビット(1バイト)の倍数に限られていた。HDLCでの仕様変更によって、上位レイヤーのバイナリーデータを効率よく、透過的に伝送できるようになった。

SDLCからの変更点を橙色で示した。バイナリーデータを送信するためのフレームフォーマットや伝送手順の基本的な考え方はSDLCで確立された。HDLCでは、データを格納する情報部を1ビット単位で可変長にしたり、端末が対等の機能を持つ非同期平衡モードを定義したりするなどの工夫が取り入れられた。
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 制御手順にも改良点がある。SDLCでは、リンクの制御に責任を持つ「一次局」と、その一次局からの指示に従う「二次局」が定義されている。データのやりとりは、まず一次局がコマンドを送信し、それに対して二次局がレスポンスを返すという手順(正規応答モード)が取られた。これは大型のホストコンピューターに小型の端末をつなぐという利用方法を念頭に置いた手順である。

 一方、HDLCでは、SDLCの手順に加えて、一次局のコマンドを待たずに二次局がレスポンスを送信する手順(非同期応答モード)を定義した。さらに、一次局と二次局の両方を兼ね備えた「複合局」を新たに設け、複合局同士が対等な関係でコマンドやレスポンスをやりとりする手順(非同期平衡モード)も追加した。これらのモードによって、コンピューター同士が対等の立場でデータをやりとりするのに適した仕様になった。

今も様々なシーンで活躍

 ITU-T(国際電気通信連合 電気通信標準化部門)は、公衆パケット網の標準規格X.25のデータリンク層として、LAP(Link Access Procedure)という名称でHDLCの仕様を採用した。その後、HDLCの非同期平衡モードをLAPB(LAP Balanced)として標準化し、それをX.25のデータリンク層の後継とした。

 インターネットの世界でもHDLCの技術が使われている。ポイントツーポイントの伝送プロトコルである「PPP」(Point-to-Point Protocol)はHDLCのフレームフォーマットを採用した。PPPはアクセス回線に加え、バックボーンの光伝送回線上のフレーミング技術(PPP over SONET)にも利用されている。