2020年12月15日公開の「iOS 14.3」から、「iPhone 12 Pro」「iPhone 12 Pro Max」の2つのモデルで、新たに「Apple ProRAW」(以下、ProRAW)が使えるようになった。
「RAW」はカメラのイメージセンサーが捉えた光をデジタル化し、加工を施さずにほぼそのまま保持するデータ形式。以前からデジタル一眼レフカメラなどで活用されている。汎用的な「JPEG」や「HEIF」などの画像形式では、圧縮処理を加えるために様々な情報が失われてしまう。RAWデータにはそうした情報が残ったままであるため、撮影後に行う加工の自由度が高いといった特徴がある。
ProRAWは米Apple(アップル)が開発したRAW形式のこと。RAWの特徴を生かしつつ、iPhoneの「ナイトモード」「スマートHDR」「Deep Fusion」などでも使われている「コンピュテーショナルフォトグラフィー」と呼ばれる高度な画像処理を利用できるアップル独自のフォーマットだ。
どんなときにProRAWを使うと便利なのかを検証してみた。
一般的なRAWとProRAWはどこが違うのか?
デジタルカメラはレンズを通ってきた光をイメージセンサーが受けてデジタル信号に変換する。この段階で取り出したデータがRAWだ。通常はここから色や明るさなどが調整され、ユーザーが通常見ている写真として保存される。
RAWデータとして取り出した場合は、対応する画像編集アプリに読み込み、ユーザーの手で加工しなければならない。この作業はフィルムカメラ時代に倣って「現像」あるいは「RAW現像」と呼ばれている。
現像で最終的な画像に加工できたら、JPEGやHEIFといった汎用的な画像形式に書き出すわけだが、その段階で不要な情報を減らして圧縮する。
実はiPhoneでも「iOS 10」から、サードパーティーのカメラアプリを使えばRAW撮影が可能だった。RAWデータを現像するための機能や専用のアプリも存在する。
iPhoneの標準「カメラ」アプリでは、シャッターを切ると条件を変えて複数枚の映像を撮影。それらをAIが解析して合成するといった高度な処理を加えて1枚の写真を作り出している。これは、コンピュテーショナルフォトグラフィーと呼ばれる。人の顔を認識して肌を自然な色で再現したり、白飛びや黒つぶれをなくし色のグラデーションも再現したりする「スマートHDR」、細部まで高精細に描写する「Deep Fusion」、暗い場所でも撮影できる「ナイトモード」といった機能の根幹となっている。
これまでの標準カメラアプリは、コンピュテーショナルフォトグラフィーを適用した写真を保存する際、JPEGまたはHEIFしか使えなかった。iOS 14.3からはProRAWでも保存できるようになった。
筆者は、ProRAWの発表を初めて聞いたとき、これまでのRAWに加えて、コンピュテーショナルフォトグラフィーで使われる情報も「生」、つまり加工前の状態で記録されるのがProRAWなのだろうと思っていた。
例えばナイトモードやDeep Fusionなどの効果を撮影後にユーザーが調整できるようになると考えた。しかしそうではなかった。考えてみれば、AIが処理に使う極めて多くの情報をそのままの形で人が扱えるかどうかは疑問だ。
実際にProRAWを使ってみたら、特に現像で新たなパラメーターが現れるわけでもなく、操作はこれまでのRAWとなんら変わりがなかった。
ProRAWは、撮影したシーンに応じてiPhoneがコンピュテーショナルフォトグラフィーで「良い感じ」にして処理してくれたデータを、編集・加工しやすいRAWとして保存しているのだろう。
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