今、日本のIT業界で「熱いワード」といえばDX(デジタルトランスフォーメーション)である。このDXで重要なのはデジタルよりもトランスフォーメーションのほうだ。

 日本語では「変革」や「改革」と訳される場合が多いが、日本の社長やCIO(最高情報責任者)はこの「変革」や「改革」という言葉がたいそうお好きなようだ。経営者のインタビュー記事などを読むと変革という言葉の連呼である。「当社は現状維持で頑張ります」では記事にならないし、経営者として無能と思われてしまうので、とりあえず「変革・革新」と唱えておけば無難なのだろう。

 変革を叫ぶことが無難、というのは大いなる矛盾である。いや、もしかすると社長やCIOは本気で大胆な変革をしようと考えているのかもしれない。しかし、システム企画や開発の現場を見ると「変革」していこうという熱意はあまり感じることができない。「現状維持」や「事例模倣」の安全運転でいこう、という風潮が目に付く。

「事例模倣」がクローズアップされる

 さすがに「現状維持」だけだと何も変わらないので、経営者から叱責されるかもしれないし、予算もつかないので、少しは変えよう、となる。そこで「事例模倣」がクローズアップされるのである。他社で成功した事例を参考にすれば失敗する可能性は低いだろうし、それになによりも新しく自分たちで生み出すより早くて楽だ、と考えることはあながち間違いではない。

 しかし、それは「改善」には有効かもしれないが、「変革」にはならない。

 ユーザーもそれをわかっている。自分たちに「変革」は無理で「改善」が現実的だと考える。改善なら聞いたほうが早いと、ベンダーやコンサルタントに「何か良い事例はない?」「サンプルをもらえると助かるんだけど」と軽い気持ちで聞く。ところがベンダーやコンサルタントはそう簡単には事例やサンプルは渡せないのである。

 出し惜しみをしているわけではない。簡単には出せないのだ。他社事例は秘密保持契約を締結していれば当然出せない。顧客の許可の下、ベンダーのホームページやカタログの宣伝用事例として公開する場合もあるが、宣伝レベルの内容だけでは「事例模倣」には使えない。

 筆者も初回訪問の引き合い先から「事例が欲しい」「サンプルが欲しい」という要望をもらうことがある。事例については秘密保持契約を理由に断る。不満を言われたら「御社の案件欲しさに他社事例をホイホイと見せるということは、いずれ御社の事例を他社に見せるということですよ」と申し上げる。大抵はそれで納得いただけるが、納得しなければ当方から商談を辞退する。

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