米アマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services)の日本法人であるアマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS Japan)は2021年3月2日、大阪周辺に設置したデータセンター群「大阪リージョン」を本格始動させた。2011年の「東京リージョン」稼働から10年、国内でのクラウドサービスの歩みと現時点での課題について長崎忠雄社長に聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ編集長、中山 秀夫=日経クロステック/日経コンピュータ)

長崎 忠雄(ながさき・ただお)氏
米国カリフォルニア州立大学ヘイワード校(現イーストベイ校)で理学士号取得。2006年にF5ネットワークスジャパン社長兼米国本社副社長。2011年8月よりアマゾン データ サービス ジャパン(現アマゾン ウェブ サービス ジャパン)社長(写真出所:AWS Japan)
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東京リージョン開設から10年。日本市場の開拓をどう振り返りますか。

 顧客の要望に耳を傾けてサービスのラインアップを増やすとともに、クラウドに対する顧客の懸念を1つひとつ払拭してきた10年でした。

 我々は当初より、基幹系を含む情報システムのワークロードのかなりの部分が(オンプレミスから)クラウドに移行すると信じてやっていました。ただもちろん、顧客によっては(クラウドの受容について)社内で温度差がありました。

 そこで当初は、いきなりミッションクリティカルな領域を移行するのではなく、Webサイト配信やデータ分析、アプリケーションの新規作成など、移行しやすい領域への適用を勧めました。顧客企業も、こうした領域でクラウドの使い方や運用モデルの理解が進むと、次の段階に進みやすくなるんですね。

 日本市場でAWSが本格的に普及するきっかけになったのが、欧州SAPのようなERP(統合基幹業務システム)です。ERPのワークロードをクラウドに載せれば、スピード感をもってシステムを移行でき、しかもコストダウンにもつながる。この利点が知られるようになり、企業の規模や業種を問わずクラウド移行の機運が高まりました。化学メーカーを皮切りに製造、製薬、小売りなど業種を問わず広がりました。

 2015年にSAPジャパンは、AWS上で稼働するSAPアプリケーションを導入した国内企業が100社を突破したと発表しました。SAPのERPはまさにミッションクリティカルのシステムです。この頃から、あえて「重い」システムからクラウドに移行しようとの機運が現れました。

 POS(販売時点管理)システムを全てAWSに移行した東急ハンズや、基幹系システムを移行させたミサワホームがその代表例ですね。こうした野心的な事例が多くの企業の背中を押したと思います。

 先行ユーザーはある程度のリスクを取って移行しているので、我々としても絶対に失敗してもらいたくない。クラウドジャーニーを成功に導くため、並走する形で全面的に支援しました。

 もう1つ、「JAWS-UG(AWS Users Group – Japan)」のようなエンドユーザーのコミュニティーが、日本市場の底上げや啓蒙にものすごく貢献していたと思います。

金融のような規制産業はややクラウド移行が遅い傾向がありましたが、2017年に三菱UFJフィナンシャル・グループがAWSの採用を表明したことが注目を集めました。

 金融業界向けには2012年ごろから金融庁や金融情報システムセンター(FISC)などと数年かけて話し合い、クラウドへの懸念を払拭していきました。

 ユーザー企業同士の交流も、懸念の解消につながりました。ソニー銀行などAWSを先行して採用していた金融機関が、導入を検討している他の金融機関とクラウド活用について対話する、といったことを繰り返しました。

 我々も、顧客ごとに異なる懸念点に1つひとつ対応していきました。例えばAWSは米ワシントン州法を準拠法としており、これまでも顧客の要望で個別に準拠法を変えることはありましたが、2017年11月からは顧客自身がコンソール上で準拠法を日本法に変更できるようになりました。

大阪拠点、フルリージョン化の理由

2018年に大阪リージョンの運用を始めた当初、他の国では前例のない「ローカルリージョン」という扱いでしたね。

 一般的なリージョンは、データセンター群の単位である「アベイラビリティーゾーン(AZ)」が複数あるクラスター構成です。一方、当時の大阪リージョンはAZが1つしかない構成で始めました。これがローカルリージョンと呼んだ理由です。

 あえてローカルリージョンを設置した背景には、「大阪にディザスターリカバリー(DR)の拠点を置きたい」という日本の顧客の要望がありました。東京リージョンをメインで使っている企業が災害時のバックアップとなる拠点を整備するとすれば、コンプライアンスやガバナンスの観点で、数百キロ以上離れた場所に置く必要がありました。

 我々は当初、DR拠点を望む顧客に「米国やシンガポール、オーストラリアのデータセンターを使うのはどうか」と勧めていましたが、顧客からは「データを日本から出したくない」との要望がありました。であれば、DRを主目的としたリージョンを大阪に設置しようとの話になったのです。このため、当初は大阪リージョンにおけるサービスのラインアップも限定的になりました。

今回、大阪をフルリージョンとして正式に稼働させた経緯は。

 大阪ローカルリージョンを開設した後、関西圏を中心とした西日本、そして愛知県の顧客から「大阪リージョンをDR用途ではなく、フルリージョンとして使いたい」との要望がありました。愛知県とその周辺だけでも、欧州の1国並みの経済規模があります。そうした顧客の声に応える形でフルリージョン化を決断しました。

 大阪リージョンがフルリージョン化することで、使えるサービスの数が増えます。現在は東京リージョンほどではないですが、徐々に増やしていくつもりです。さらに複数のAZを利用できるので、大阪リージョンだけで可用性の高いアプリケーションを構築できるのも大きな利点です。西日本の顧客に低レイテンシー(遅延)でサービスを提供できるのもプラスアルファの利点ですね。

今後、自動車産業を中心に、IoT(インターネット・オブ・シングズ)の実験が日本でも始まりそうです。日本でローカルゾーン(低レイテンシーを主眼とした小規模なゾーン)を置く計画はありますか。

 これも顧客の要望次第と思います。様々な話を水面下で進めてはいますが、日本でもローカルゾーン設置は十分可能性があると思います。

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