東京大学は2022年1月12日、「AI経営寄付講座」第2弾となる社会人向けプログラムを開始した。前年に開講した学生向けプログラムに続くもので、技術のみならず経営の視点でAI(人工知能)を理解し、社会実装できる人材の育成を目指す。日本でもリスキリングの一環で社会人向けAIの教育コンテンツが増えているが、「AI×経営」という切り口の講座は珍しい。DX(デジタルトランスフォーメーション)を担う日本の人材が習得すべき知見とは何か。同講座の設置に深くかかわった東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授に聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ編集長)

東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授
東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授
(撮影:村田 和聡)
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なぜAI経営寄付講座を開講しようと考えたのでしょうか。

 実は海外では今、企業経営においてAI技術をどう生かすか、という視点の講義がかなり増えています。米マサチューセッツ工科大学(MIT)や米ハーバード大学のビジネススクールでは、企業によるAI活用の事例を共有して、それを学生が使えるようにしています。

取材はリモートで実施した
取材はリモートで実施した
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米ハーバード・ビジネス・スクールが作成しているケース(企業事例)教材のAI版といったイメージでしょうか。

 まさにその通りです。AI技術のビジネス応用は当然ながら経営にとって重要事項であり、経営者の視点からみたケーススタディーとして押さえておくべきです。

 対象はMBA(経営学修士)生に限りません。例えばMITは学部生のほとんどがAIの基礎を学び、「AI×経営」を学ぶのもすでに当たり前になっています。技術者にとっても「AIを経営にどう生かすか」は当然のように知っていた方がよい。にもかかわらず、日本にはそうしたコースがありませんでした。

 AIの技術に関する講義コンテンツは日本にもたくさんあります。ただAI×経営の講義は、世界で流行しているにもかかわらず、日本にはない。そうした問題意識をもっていたところ、企業の方と話をする中で「では寄付講座でやりましょうか」となったわけです。

具体的な講義のイメージは。

 バーティカル(縦軸)とホリゾンタル(横軸)の双方で体系的にAI活用を学ぶ方針を掲げています。前者は業界ごとのAIの使い方を学ぶもので、例えば医療の分野でAIをどう使っているか、物流や保険ではどうか、を学びます。後者は共通業務での使い方を学ぶもので、人事でAIをどう使うか、経理ではどうかといったことを体系的に学びます。

2021年6月に、第1弾として学生向けの寄付講座を開講しました。その手ごたえは。

 学生にとって、医療や保険といった業界でのAI開発を疑似体験できる機会になったのではと思います。大学で学んでいるテクノロジーが社会でどう位置付けられているかを把握できる。自分の力を世界の中でどう生かしていくか、非常にクリアに意識できるようになったと思います。

 実際、学生向けプログラムの一環で2021年12月に実施した最終プレゼンは大変レベルが高かった。一般に大学生はビジネスに関する社会経験が乏しく、こうしたプレゼンで良い提案が出てくることが少ないんですが、今回は非常にうまくいきました。

 2022年1月からは社会人向けの講座を開講しましたが、仕事の経験がある方々が対象なので、ビジネス上の前提や常識を飛ばして、少し突っ込んだところから始めています。

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