複雑化、ブラックボックス化した基幹系システムをそのまま利用し続けているとデジタルトランスフォーメーション(DX)が実現できないのみでなく、2025年以降1年間で最大12兆円の経済的損失が発生する――。経済産業省が2018年9月に公表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」は情報システム部門の担当者だけでなく経営層にも大きな衝撃を与えた。
古い基幹系システムの刷新が企業の大きな課題となる中、今度は新型コロナウイルス対策という新たな課題が浮上した。急に始まった長期の在宅勤務やサプライチェーンの停滞への対応、そして外出自粛による新たな物流需要の高まりなど、ほんの数カ月の間に企業の置かれる環境は大きく変わった。
DXの実現や、「アフターコロナ」といわれる新型コロナウイルス対策がもたらす新たな企業経営の支援など、古い基幹系システムの刷新は企業にとって急務だ。経済産業省のDXレポートは2020年までを「(システム刷新の)経営判断/先行実施期間」、2021~2025年を「システム刷新集中期間」と位置づけている。DXレポートに沿えば2020年中に次の基幹系システム刷新の方向性を示し、着手できるところからプロジェクトを開始する必要があるのだ。
ではDXを支援しアフターコロナの時代の新しい経営を支える基幹系システムはこれまでの基幹系システムと何が違うのだろうか。その条件といえるキーワードは3つある。「スピード」「社外」「トップダウン」だ。それぞれのキーワードについて見ていこう。
基幹系システムを10年利用する時代は終わり
まずは「スピード」だ。「なぜレガシーな基幹系システムから脱出しなければならないのか。それは現在の基幹系システムにアジリティー(俊敏性)が足りないからだ」。アビームコンサルティングの大村泰久P&T Digitalビジネスユニット執行役員プリンシパルはこう指摘する。
これまで基幹系システムを一度構築したら「10年は利用する」といった考え方が当たり前だった。しかしこれからの基幹系システムは、「必要になったらすぐに利用する」「新しい技術を取り込んでいく」といった発想を基に「迅速に可変なシステムが求められる」と大村プリンシパルは話す。
これまでの生産管理システムは生産計画を立案し、指図書を作成し、生産や出荷の管理をするといった機能が一般的だった。しかし今、工場ではIoT(インターネット・オブ・シングズ)の導入などにより、取得できるデータが飛躍的に増えた。IoTで取得したデータを生産管理システムに取り込んで利用できれば、より正確で柔軟な生産計画の立案や、生産効率の向上などを実現できる。
IoTを導入した際にいつまでも基幹系システムと異なるシステムとみなして運用していると効果は出ない。こうした新しい技術を取り込むだけでなく、「スピードをもって経営の変化などを反映できるシステムにすべきだ」と大村プリンシパルは話す。