最新モバイルブロードバンド規格として注目されている5G(第5世代移動通信システム)のサービスは、現実世界とデジタル領域を高速につなぐ無線のインターフェースとして、DX(Digital Transformation)でも活用できると期待されている。

 DXを推進する企業にとって、「いつ5Gを採用すべきか」「どんなサービスで活用すべきか」が気になるところだろう。前回の記事では、5Gの概要と今後の展開を解説した。その内容を踏まえると、少なくとも今後の数年間については、企業が5Gサービスを利用する際のメリットは「高速・大容量」なモバイル通信機能にあると考えるのがよさそうだ。そこで今回は筆者の予測に基づき、5Gの「高速・大容量」に主眼を置きつつ、「同時多数接続」なども少し視野に入れて、5Gをいかに活用するかのユースケースを探っていこう。

 筆者は直近での5Gの活用シーンは、大容量データの筆頭「4K高画質映像」の処理にあると考えている。特に期待しているのが、AI(人工知能)を使った高画質の映像データの解析である。解析結果を基に、企業のビジネスに大きな付加価値を持たせることができるはずだ。

 なお、5Gの導入を検討する際に前提として注意すべき点が1つある。それは「無線LANを使った既存のサービスや業務を、5Gで置き換えようとは考えないこと」である。通信速度や同時接続数に関して現状の無線LANで足りている業務を5Gに置き換えても、メリットはほぼない。機能・コストどちらの面でも同様だ。5Gは無線LANの置き換えではなく、これまでの技術では実現できていない新たな業務改善や新ビジネスのために使うものと考えよう。

 ここでは以下の3つの観点から、5Gを従来の業務の改善や新サービスの開発に生かす方法を検討する。4K対応カメラなど高画質の動画を処理できる機器を5Gに接続し、企業システムと連携させるケースを想定した。自社のビジネスにどう当てはめられるかイメージしながら、各ケースを読んでほしい。

  • 目視より広域に、多数の被写体の情報を同時処理する
  • 動く被写体の情報を正確に把握する
  • 視点の移動が容易である

目視より広域に、多数の被写体の情報を同時処理する

 4K対応カメラなど高画質の動画を撮影できる機器を5Gネットワークにつなぎ、データを集約して解析する。今まで人間が目視と手作業で処理していた仕事を、機械が自動処理できるようにする考えだ。目視よりも広い範囲で、遠方に置かれた被写体の情報を正確に取得できる。

 例えば工場での検品など目視による複雑な情報処理が必要な業務には、熟練が要求される。人手を介する以上ミスが起きたり、時間がかかってしまったりすることもあるだろう。そこで人の目で見た光景の代わりに、4K高画質カメラで撮影した動画データを収集し、データ活用基盤に送ってAIで解析する。今まで人手で実行していた作業は、解析結果を基に機械が自動で処理するよう現場のシステムと連携しておく。作業が細かく複雑であるほど、AIとシステムの自動化によって作業スピードは上がるだろう。

 4K対応カメラを使う場合は撮影可能な動画の解像度が高いため、より遠くの光景を広域に捉えられる。一説に、人間にはHD画質(2K)と4K/8Kとの違いはそこまで厳密には分からないといわれる。しかし、AIは画質の違いを正確に把握できる。より高画質なデータを使って機械学習すれば、それだけ細かい状況の分析が可能になるのだ。目視より多数の被写体の情報を正確に把握できるため、ミスが減るといったメリットも得られそうだ。

 筆者が勤務する野村総合研究所では、AIによる画像解析のPoC(Proof of Concept、概念実証)を実施したことがある。その結果、HD画質で撮影した動画は、被写体との距離や照明などの条件によっては、AIの解析対象として精度が低いことが分かった。例えばAIを使って動画データに対する顔認識をする場合、HD画質では被写体とカメラを水平距離で5m以下まで近づけなければいけなかった。一方、4K動画では最大で15m強まで被写体との距離があっても対応できた。

 ちなみに撮影環境によっては解像度だけでなく、カメラの備える輝度(SDR/HDR)も重要になる。暗い場所で遠くの被写体を撮影する際は、HDRに対応している(輝度が高い)ほうがはっきりと撮影できるため、データ解析時の精度も向上する。

 ここまでの記述で「カメラとAIの解析システムを結ぶのは、5G以外の無線ネットワークでもよいのでは?」と思った人もいるかもしれない。しかし、実際には「データ転送」という観点から5Gを活用したほうがよい。

 大量の4K映像を安定して無線で送るには、4Gでは通信速度が不足する。また、こうした用途ではそれなりに多くの撮影ポイントからのデータを集約して解析したいが、無線LANでは1つのアクセスポイント当たりの同時接続端末数が限られる。最大100万台までという5Gの仕様通りの同時多数接続はまだ規格化の途中だが、現行5Gサービスでも無線LANと比べれば同時接続数は多い。そのため、工場のライン、倉庫など多数の被写体を撮影・分析するシーンでは5Gのほうが使い勝手がよいだろう。

高画質動画、AIによる解析と組み合わせた5Gの使いどころ
高画質動画、AIによる解析と組み合わせた5Gの使いどころ
(図は筆者が作成)
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