DX(Digital Transformation)時代の情報システムには、市場の状況やユーザーニーズの急激な変化に対応するための「アジリティー、スピード」が必要だ。十分な「アジリティー、スピード」を得るため今や欠かせなくなったのがクラウドサービス(以下、クラウド)である。今回は全社の情報システムにクラウドを導入する際のポイントを見ていこう。

導入前に必要な準備を考える

 企業の情報システムで、クラウドの導入が本格化し始めたのは2000年代末から2010年代のことだ。それから今までの約10年間で、クラウド導入を検討・実施したさまざまな企業の例から「クラウド利用時のよくある課題」が浮かび上がってきた。この課題を分析すると、クラウド導入時に企業が注意すべきポイントが見えてくる。筆者が企業の情報システム部門とのやり取りを通じて、特に「あるある」だと考えているのは以下の4点だ。

〔1〕社内を説得できず、導入の検討が進まない

 クラウドの活用について検討は始めたものの先が続かない、なかなか導入まで至らないといったケースがある。背景には、経営層にクラウド導入の目的や効果を定性的・定量的に説明できないため、社内合意を得にくいという課題があるようだ。

 情報システム部門の担当者からは「クラウドの導入を検討し始めたいが、そもそもどのようなタスクをこなす必要があるのか全体像が分からない」といった悩みもよく聞く。自社で利用すべきクラウドはどれなのか決めきれない、セキュリティーリスクなどの懸念点をどう整理すればいいか分からないといった状況だ。

 こうした「分からない」「決めきれない」状態から脱してクラウド導入を進めるには、情報システム部門だけでなく全社の協力が必要だ。経営陣や現場からも情報を集め、経営戦略とIT戦略との間で整合性を取りつつ「今後解決すべきビジネス上の課題は何か」「そのために必要なクラウドはどれか」「セキュリティーなど導入時のリスクは何か」を整理する。全社を巻き込んでグランドデザインを描くことが欠かせない。

〔2〕「シャドーIT」としてクラウドが乱立している

 クラウドは導入を決めればすぐに利用可能なため、「現場が必要に応じて個別にクラウドを使い始めてしまう」「本番稼働し始めたのに、情報システム部門はそれを知らない」ケースがよくある。いわゆる「シャドーIT」として導入されたクラウドだ。

 クラウドのシャドーIT化が進むと、企業内で定めたセキュリティールールが守られているか否か、情報システム部門で把握できなくなってしまう。この懸念を払拭するには、企業全体でクラウド環境を統一し、それ以外のクラウド導入は制限するのが望ましい。

〔3〕期待していたほどのコスト削減効果が出ない

 クラウド導入の目的の1つに「コスト削減」を挙げる企業は多い。ところが、企業の情報システム担当者からは「実際に導入してみると、期待していたほどコスト削減できなかった」という話をよく耳にする。特定のシステムだけをクラウドに移行したり、既存のシステム構成や運用方法を変えずにそのまま単純移行したりすると、かえってコストが高くなることさえある。

 システムの設計をクラウド向けにしていないと、「余計なライセンス費用がかかる」「オンデマンドに課金されるリソースの確保・利用が最適化できておらず、無駄が出る」といった問題が起こりやすい。クラウドに対応できる新たな障害対応や監視の仕組みが必要となって、構築費用がかさむケースもある。

 こうした問題を避けるには、企業全体で戦略的にクラウド活用を検討し、既存のオンプレミス環境、新しく導入するクラウド環境、運用方法も含めて包括的に最適化する必要がある。

〔4〕期待していたほどアジリティーが向上しない

 冒頭で述べたように、クラウド導入の大きな目的の1つは情報システムに「アジリティー、スピード」を持たせることだ。ところが実際にクラウドに移行した企業から、「インフラの調達期間は短くなったが、システム全体としての改修時間はそれほど変わらない」という話をよく聞く。つまり「スピードはある程度改善したが、求めていたほどのアジリティーは得られなかった」ケースが少なくない。

 クラウドにはシステムのアジリティーを高めるさまざまな自動化機能が用意されている。例えばシステムにかかる負荷に応じてインフラのリソースを自動で増減させる「オートスケール」機能などが代表的だ。こうしたクラウドならではの機能は、既存のオンプレミス環境のアーキテクチャーや設計思想・運用方法をそのまま引き継いでいては十分に活用できない。アジリティーを十分に高めるには、クラウドに合ったアーキテクチャーや設計思想が必要となる。

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