電子承認は、組織内の紙を使った承認処理に代わって、デジタル化したワークフローによって決裁を済ませるシステムである。物理的な文書のやり取りが不要なため、リモートワークの拡大に伴って採用する組織が増えている。組織間のやり取りで使われる「電子契約」と連携するものもある。

 本記事では電子承認とは何か、メリットとデメリット、基本的な機能、料金相場、活用のポイントを、デジタルを使った組織内の業務に詳しいPPAP総研の大泰司章氏が解説する。併せて、日経クロステックActiveの記事から、代表的な製品や事例などを紹介する。

初回公開:2022/3/22
*「1. 電子承認とは」「2. 電子承認を導入するメリットとデメリット」「3. 電子承認の基本的な機能」「5. 電子承認の製品・サービス分類と価格相場」「6. 電子承認を活用する上でのポイント」は大泰司 章氏が執筆

1. 電子承認とは

 電子承認は、紙にハンコを押すなどで実現してきた社内での決裁の流れを電子化したものである。新型コロナウイルスの感染拡大を契機としたリモートワーク拡大の勢いは強く、電子署名や電子契約サービスが急速に普及してきた。その前から利用されてきた電子承認についても、見直しが広がっている。

 一般的に組織内の決裁の流れは、承認してほしい文書を作成した担当者が「申請」して、時として「稟議(りんぎ)」を経て、承認者(権限を持って承認する人)が「承認」した結果、「決裁」となる。これを電子化すると、それぞれの場面に応じて、「電子申請」、「電子稟議」、「電子承認」、「電子決裁」と呼ばれるが、今回はこれら全てを一連の流れと捉えて、「電子承認」と定義する。

(出所:123RF)
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 電子承認のシステムには、紙に押すハンコのイメージを画面に表示するものもある。具体的には、担当者が申請した文書を電子的に受け取り、承認者が承認する(ハンコのイメージを書類の所定の場所に貼り付ける)ことで、決裁となる。

 文書は電子的に、(稟議の場合は複数の承認者に引き継がれ、それぞれから承認を受けて、)最終的な承認者に届く。ハンコを意識しない場合や、他システムと連携する場合は、「ワークフロー」とも呼ばれる。

 会社間のやり取りで使われる「電子契約」と比較すると、「電子承認」は社内のやり取りで使う仕組みといえる。電子契約では文書やデータがそれ自体で流通することが多いために、作成者の本人性と非改ざん性を証明する「電子署名」が重要となる。

 これに対して電子承認は、文書やデータが組織内のシステムに入ったままとなる。本人性と非改ざん性はシステム自体で保証するという考え方のため、電子署名まではしないことがほとんどだ。

 電子承認のシステムは、UX(ユーザーエクスペリエンス)に工夫をこらしている。紙に押印するイメージを残して、電子化したときの違和感を極力なくしているものや、全く逆に紙のイメージを脱してPCのブラウザーやスマホ画面に最適化させているものといったように、システムによって差異がある。

 ERP(統合業務パッケージ)や販売、会計、給与といった業務システムにも、簡易な承認機能が標準またはオプションで付いている場合が多い。特定業務の中で完結する承認については、その業務システム内で処理を終えるのが一般的だろう。一方で、文書管理システムやグループウエアといった業務を特定しない情報系システムにも、承認機能が付いているものがある。

 組織は各システムが備える承認機能を、業務特性や組織のあり方に応じて使い分ける必要がある。これらの承認機能を使わずに、電子承認のシステムを各システムと連携させて、共通の基盤として利用することもある。

電子承認の分類

 電子承認システムは、オンプレミス型とクラウド型に大別できる。他のシステムでは、クラウド型が一般的になってきているが、社内のシステムとの連携やカスタマイズのしやすさから、オンプレミス型に対するニーズも根強い。

 オンプレミス型は、自社の業務に合わせて導入できるというメリットがある。その一方で、初期投資や運用コストがかかる。

 クラウド型はすぐに導入できるというメリットがあり、初期コストも安い。ただし、ほぼ全社員が使うものだけに。ライセンス体系に気を付けないと、長期的なコストが高くつく場合がある。

 セキュリティについては、どちらが望ましいかということは一概にはいえない。かつては「セキュリティを確保するにはオンプレミス」という考え方が浸透していたが、適切なクラウドサービス事業者を選べば、十分にセキュリティを確保できる。

2. 電子承認を導入するメリットとデメリット

 電子承認の導入により、企業にもたらされるメリットとデメリットは以下の通りだ。

電子承認のメリット

(1)ビジネスのスピードアップ

 電子承認では、文書が決裁プロセスのどこにあるかを可視化できる。紙で稟議をしていたころは、誰のところで文書が止まっているか探し回ったものだが、電子承認ではプロセスがどこで止まっているかが一目瞭然となる。所在はすぐに分かり、その承認者はプロセスを回すようになるだろう。

 しかも外出先などからリモートで文書を閲覧でき、承認までを済ませられる。オフィスに帰ってからハンコをついて次に回すといった物理的な作業はなくなり、承認のスピードは劇的に上がる。

(2)コスト削減

 最も大きな効果は、紙を取り扱う担当者の工数削減である。さらに紙代や印刷代のほか、複数拠点をまたいだ承認では郵送代を削減でき、保管にかかるスペースも縮小できる。

 目に見えるコスト削減ではないが、ペーパーレスにより環境への負荷も軽減できる。これは企業イメージの向上につながるだろう。

(3)コンプライアンスの向上

 改ざんがしにくい機能を備えているシステムは、組織のコンプライアンス向上に役立つ。紙の文書が散在して管理されており、持ち出されても分からないという状況に比べると、セキュリティも高められる。さらに適切にバックアップを取ることで、紛失や災害での消失への備えにもなる。

(出所:123RF)
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(4)リモートワークに必須

 コロナ禍を契機にリモートワークが広まった後、かつてのような一斉出社には戻らないとする組織もあるだろう。リモートワークをする上で、紙による承認プロセスを残すことは困難だ。リモートワークには、紙の文書のやり取りを伴わない電子承認が必須といえる。

(5)社内のBPR、カルチャーの変革

 電子承認の導入を機に、業務プロセスを再デザイン(BPR:ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)して、複雑なワークフローを単純化すれば、組織内の申請や意思決定を迅速にできるようになる。「時間ばかりかけて何も決まらない」というカルチャーを抱える組織は、これを変革の機会にもできる。

電子承認のデメリット

(1)変更に伴うコスト発生

 電子承認の導入に伴い、組織の規則や業務フローを変える必要がある。このため導入に当たっては、これらの変更に要するコストを見込んでおかなければならない。

(2)定着までの教育

 電子承認により紙の承認を全廃して電子化する際に、全員が新しい業務にすぐに対応できるとは限らない。組織内教育にかかる手間とコストを意識する必要がある。

3. 電子承認の基本的な機能

 組織が電子承認を実践するために、電子承認システムが備える機能は以下の通りである。

(1)文書作成

 担当者が承認対象となる文書を作成する機能である。文書をWordやExcelで作ってシステムにアップロードすることも可能だが、ゼロから作成すると手間がかかる。

 組織としてあらかじめ申請文書のフォーマットをいくつか作り、申請者に必要項目に情報を入力できるようにしておけば、申請者と承認者の作業を単純化でき、申請者が文書内のデータを再利用するといったことも可能になる。このため、多くの電子承認システムが、フォーマットを簡単に作成できる機能を備えている。

(2)承認ルートの指定

 文書の承認ルートを設定できることはもちろん、作成者が必要に応じて承認ルートを簡単に設定できる機能が必要となる。組織や役職などの権限によって、自動でのルート設定や条件付き分岐などに対応する機能があると、複雑な承認処理にも対応できる。

 状況に応じて、通常の承認者を省略したり、承認依頼をした文書を取り下げたり、いったん保留として後で承認したり、といった紙の文書でできていたイレギュラー処理に柔軟に対応できるシステムもある。

(出所:123RF)
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(3)承認とコメント

 承認者が承認するほか、場合によってはコメントを追加できる機能である。その結果はシステムで管理しており、後からいつ誰がどのようなコメントを残したのかを確認できる。稟議の場合は、誰が承認したか分かるように、承認者ごとにハンコのイメージを付けられることも多い。

(4)検索

 特定の案件をすぐ確認できるようにするためには検索機能が重要になる。できれば文書を全文検索できる機能があると使いやすい。

 新たに文書を作成するときに、参考にできそうな文書を検索しやすくしてあると、時間短縮効果が大きい。

(5)スマートフォン対応

 承認者がPCだけでなく、スマートフォンから承認するための機能である。外出中のちょっとしたすき間時間に、文書を参照して承認ができると、承認プロセス全体のスピードアップにつながる。

 ブラウザーからだけではなく、スマホ専用のアプリにより簡単にセキュアにアクセスできると、参照や承認がやりやすくなる。

(出所:123RF)
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(6)他システムとの連携

 CSVファイルによる他システムとの連携のほか、API(Application Programming Interface)による連携機能を備えるシステムも増えている。

 文書やデータを連携させるだけでなく、ユーザーやその権限、グループ情報などとも連携できるとシステム管理者の手間を軽減できる。例えばID連携によるSSO(シングルサインオン)が可能になれば、利用者が便利なだけでなく、パスワードの数を減らすことによるセキュリティ向上という効果もある。

 社内の他システムとの連携はもちろんだが、電子契約などの対外的なやり取りをするシステムとの連携も重要である。一部には、電子契約機能を備えた電子承認システムもある。

4. 電子承認の代表的な製品・サービス

 代表的な電子承認の例として、10サービスを挙げる(日経クロステック Active調べ)。

(1)ジョブカンワークフロー:DONUTS ジョブカンワークフローのWebサイト 、 (2)Create!Webフロー:インフォテック Create!WebフローのWebサイト 、 (3)X-point Cloud:エイトレッド X-point CloudのWebサイト 、 (4)TeamSpirit:チームスピリット チームスピリットのWebサイト 、 (5)WaWaFlow:アイアットOEC WaWaFlowのWebサイト 、 (6)Gluegent Flow:サイオステクノロジー Gluegent FlowのWebサイト 、 (7)Shachihata Cloud:シヤチハタ Shachihata CloudのWebサイト 、 (8)社内承認(議事録):ペーパーロジック 社内承認(議事録)のWebサイト 、 (9)intra-mart:NTTデータ イントラマート NTTデータ イントラマートのWebサイト 、 (10)EXPLANNER/FLⅡ:NEC EXPLANNER/FLⅡのWebサイト である。

5. 電子承認の製品・サービス分類と価格相場

 料金は、オンプレミス型かクラウド型かで大きく変わってくる。大企業向けの複雑なワークフローに対応したカスタマイズ性も高いものから、中小企業向けの簡易なものまで料金には幅がある。

(出所:123RF)
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 オンプレミス型は、ソフトウエアだけで初期費用が50万~数百万円かかる。さらにソフトが動作するハードウエアなどの環境整備の費用も必要になる。クラウド型はID数に対して課金するのが一般的で、1ユーザー当たり月額300~800円程度だ。

 ただし、どちらの場合も、導入の計画から実行までの工数は十分に見積もっておきたい。

6. 電子承認を活用する上でのポイント

 電子承認システムを活用する際に、組織が意識すべきポイントを以下に整理する。

(1)業務フローの変更

 自社の既存の業務フローを全く変えずに、電子承認を導入することは現実的ではない。どこまで変えられるか、また変えるべきかについて、トップはもちろんのこと、社内のコンセンサスを取っておくことが重要だ。

(2)製品/サービスの選び方

 電子承認にさまざまな呼び方があることからも分かるように、製品/サービスは生い立ちやコンセプトに違いがある。それだけに、既存の社内システムとのすみ分けや相性、連携の可能性といったところを意識する必要がある。電子承認の機能面だけで評価するのではなく、社内のシステム全体を見渡した上で業務を効率化できるのか、全体最適の視点を持つ必要がある。

(3)法制度への対応

 (2)と関連して、法制度への対応についても意識する。もし、電子帳簿保存法上の会計や取引に関する文書を電子承認システムに保存する場合は、同法に対応したシステムやサービスを選択する。

 内部統制上の証跡という用途であれば、電子承認をそのまま使うことが最適となるだろう。

(出所:123RF)
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(4)セキュリティの評価

 クラウド型を利用する場合、サービスや提供する事業者の信頼性やセキュリティを評価することが重要になる。直接調査するのは難しいため、「ISMSクラウドセキュリティ認証」や「プライバシーマーク」などの第三者認証が指標になる。

 社外との取引文書も電子化されている現在、組織内の決裁は規定を変えるのみで電子化できるはずだ。メリットを確認した上で全文書を電子化し、電子承認のメリットを享受することを推奨する。

7. 電子承認の代表的な事例

8. 注目の電子承認と関連サービス

 電子承認を導入して現場で活用するには、様々な手助けをしてくれる製品やサービスを利用するとよりスムーズに進む。以下では、注目の電子承認関連製品とサービスを紹介する。

ワークスアプリケーションズ・エンタープライズ

セールスフォース・ドットコム

チームスピリット

Box Japan

日本IBM

9. 電子承認の新着プレスリリース

大泰司 章(おおたいし・あきら)
PPAP総研 代表社員
大泰司 章(おおたいし・あきら) 1992年に三菱電機に入社し、官公庁向けITの営業に従事。日本電子計算(JIP)を経て、2012年よりJIPDECにてメールやWebサイトのなりすまし対策、電子署名等のトラストサービスの普及や電子契約サービス市場の立ち上げに従事。2020年から合同会社PPAP総研を設立し、取引の電子化のみならず、PPAPをはじめとする不合理な商習慣の廃止や、DXのコンサルタントとして活動中。