(出所:123RF)
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 ITサービスマネジメント(ITSM)とは、ITを活用したサービスを顧客やユーザーのニーズに合致できるよう管理することである。ITサービスが多種多様なかたちで提供される中、その満足度を高め継続的な利用を促すという狙いから、サービスを提供する人や組織が注目している。

 本記事ではITSMとは何か、メリットとデメリット、基本的な機能、料金相場、活用のポイントを、ITSMに詳しいITプレナーズジャパン・アジアパシフィックの最上千佳子氏がやさしく解説する。併せて、日経クロステックActiveの記事から、代表的な製品や事例などをまとめて紹介する。

初回公開:2022/7/19
*「1. ITサービスマネジメント(ITSM)とは(ただし、カコミ部分は除く)」「2. ITSMを導入するメリットとデメリット」「3. ITSMツールの基本的な機能」「5. ITSM導入の料金相場」「6. ITSMツールを活用する上でのポイント」は最上千佳子氏が執筆

1. ITサービスマネジメント(ITSM)とは

 ITサービスマネジメント(Information Technology Service Management、以下「ITSM」)を理解するためには、まず「サービスとは何か」から始めるとよい。サービス(Service)とは、「利用者が、使いたいときに、使いたい機能を、安心安全かつスムーズに使って価値を得るための手段」である。例えば、オンライン会議やメールのサービスでは、契約し利用料金を支払うと、オンライン会議やメールの送受信をしたあとに何かモノが残るわけではない。サービスの利用そのものに価値があるといえる。

 ITSMとは、「ITサービスが顧客やユーザーにとって常に最適な価値を提供できるようにマネジメントすること」である。例えば、上記のオンライン会議というITサービスを顧客やユーザーがいつでも快適に満足して利用できるようにするために、提供事業者(サービスプロバイダー)は様々なマネジメント(管理)をしている。

 ITSMに関わる人物には、以下の3つがある。ユーザーと顧客は同一になることもあるが、分けて考えた方が理解しやすい。

  1. ユーザー…ITサービスの利用者
  2. 顧客…ITサービスを契約し、利用料を支払う人
  3. サービスプロバイダー…ITサービスを提供する人や組織。ITSMの考え方を基にサービスをマネジメントする人

 例えば、企業でオンライン会議の有料サービスを利用している場合、会議利用者(一般社員)は「ユーザー」、サービス利用料の決済権を持つ部門や企業の責任者は「顧客」、オンライン会議サービスの提供事業者は「サービスプロバイダー」となる。他にも、データセンター事業者や社員に向けて情報サービスを提供する情報システム部門などもサービスプロバイダーとなる。

 サービスプロバイダーのマネジメント活動は、大きく以下の4つの観点から成り立つといえる。

  • 組織と人材(マネージャーや実務者の役割と責任を定義し、必要な人材を育成する)
  • プロセス(サービスに関わる仕事の流れを定義し、実践する)
  • 情報(マネジメントするために必要な情報を定義し、測定し、分析する)
  • 技術(マネジメントするために必要なツールを活用する)
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 それでも、マネジメントとITSMは、以下の2つの誤解に直面する場合が多い。

誤解その1

 マネジメントは「管理」と訳されることが多く、コントロールと同義だと誤解されることが多い。コントロールは「制御」と訳されるように、定めた目標に到達するように軌道修正することである。これに対してマネジメントは、改善し続けることである。(もちろん、マネジメントができるには、コントロールができることは大前提である。)

誤解その2

 ITSMツールを導入すれば、ITサービスをマネジメントできると誤解されることも多い。上記の通り、ツール(技術)はマネジメント活動の一観点でしかない。どのような目的と目標を持って、何を管理するのかを定義した上で、それを満たすツールを導入することが成功の近道だが、ツール導入を目的としてしまうと手段と目的が逆転してしまい、失敗してしまう。

 ITSMのデファクトスタンダードとなっているフレームワークが「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」である。30年以上前(正確には1988年)に英国政府がまとめたのが始まりで、現在はAXELOS Limited の登録商標となっている。

 2019年にリリースされた「ITIL 4」が最新版で、リーンやアジャイル開発、DevOpsなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)に対応するための考え方や手法が追加されている。

 このITILを基にしたITSMのスタンダード(世界標準)「ISO/IEC20000」も発表されている。データセンター事業者をはじめITサービスを提供する事業者が、そのITSMの品質の高さを保証するために取得している。

なぜITSMを導入すべきなのか

 上で定義したように、ITSMは顧客やユーザーのニーズに合致した適切なITサービスの提供を目指している。その際に立ちはだかるのが以下の課題である。

  • サービスを提供するために複数の人や組織が関わるので品質が安定しない
  • 顧客やユーザーのニーズは刻一刻と変化する

 ITSMは、複数の人や組織が関係しながらも、一定レベルのサービスレベルを維持できる仕組みを作っていく。それが上記の4つの観点(組織と人材、プロセス、情報、技術)である。

 これらがなければ、サービス提供は属人的なものとなり、「担当者によってサービスレベルが異なる」「問い合わせをするたびにたらい回しにされる」「トラブル続きで使えない」というような品質の低いサービスとなってしまう。

 このためITSMの導入(つまり、上記の4つの観点で何をすべきかを定義し、関係者がその定義に従って判断し、行動できるようにすること)は、顧客やユーザーのニーズに合致し、満足度の高いサービスを提供し、サービスを継続利用してもらうために必須である。

2. ITSMを導入するメリットとデメリット

ITSMのメリット

(1)品質の高いサービスを提供できる

 サービスの内容とレベルを決め、いつも同じ品質で提供できるように目指すのがITSMの基本(最低限すること)である。従って、ITSMの導入により、ユーザーはいつも同じ品質のサービスを利用できる。

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(2)コストを削減できる

 同じ品質でサービスを提供するためにはプロセス(仕事の流れ)の標準化(定義し、誰もが同じように行動すること)が必須となる。これにより無駄がなくなることは、コスト削減に直結する。標準化できるものは多くの場合、自動化も可能である。

 さらに標準化には測定も含まれるため、見える化も促進される。現状の課題を見える化できれば、それを改善してコスト削減につなげられる。

(3)顧客/ユーザー満足度が上がる

 品質の高いサービスを提供でき、しかも改善され続ければ、おのずと顧客満足度は上がる。もちろん、ユーザー満足度も上がる。

ITSMのデメリット

 ITSMの本質を関係者全員がしっかり理解して導入すれば、デメリットはない。ただし、関係者の理解が不十分であったり、手段(ITSMやITSMツールを導入すること)が目的になってしまったり、現状にそぐわない高度過ぎるITSMやITSMツールを導入すると、次のようなデメリットが発生するリスクはある。

(1)コストが増加する

 管理することが目的となり、管理するためのデータ測定や分析や報告に必要以上に時間(つまり工数)がかかってしまう。「そこまでするだけの価値があるか?」を常に自らに問いかけ、関係者間で話し合い、投資対効果を意識して現実的な進め方を模索するべきである。

(2)メンバーの士気が低下する

 何のためにITSMを実践しているかがサービスプロバイダーの関係者(メンバー)にしっかり伝わっていないと、その士気が低下する。例えば、ユーザーからの問い合わせを受けたらすぐに必ず記録し、進捗状況も記録するというのは基本だが、作業者は「解決すればそれだけでよいのでは?いちいち記録するなんて面倒だ」と考えがちである。

 このような気持ちで日々問い合わせを受けていると、メンバーの士気が低下するのは明白だ。しかし中長期のサービス品質向上の観点から、それらの記録が組織のナレッジを向上させ、改善につながることをメンバーにしっかり伝え、理解を促すという行動が必要になる。

(3)顧客/ユーザー満足度が低下する

 サービスプロバイダーのメンバーの士気が低下すれば、サービス品質が下がるので、結果的に顧客満足度もユーザー満足度も低下する。

3. ITSMツールの基本的な機能

 前述の通り、ITSMはマネジメント活動全般を指す。しかし、本章では読者がイメージしやすいようにITSMを支えるツール(ITSMツール)の主要な機能について紹介する。

(1)記録

 メンバーが入力した内容を記録する機能。ユーザーからの問い合わせを受けた際に、受け付け日時や問い合わせ内容や、対応の進捗状況や解決時間を記録する。時間は、入力した際のタイムスタンプが自動的に記録されることが望ましい。Webフォームによりユーザーが入力した内容を自動的に記録する機能のほか、電話での問い合わせをそのまま保存する音声の自動記録機能などがあると、現場の作業を省力化できる。

(2)ステータス

 事前に定義したステータスを選択できる機能。多くのツールでは、一般的なステータスが既定値としてツールに登録されており、管理者またはツール利用者が追加できる。例えば、問い合わせを管理する場合は、「受付済」「対応中」「クローズ」などのステータスがある。

 

(出所:123RF)
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(3)優先度付け

 事前に定義した優先度付けを選択できる機能。多くのツールでは、一般的な優先度付けの基準が既定値としてツールに登録されており、管理者またはツール利用者が追加できる。一般的に「緊急度」と「影響」の2軸から優先度を3~5段階に分けて設定することが多い。

(4)分類

 事前に定義した分類(カテゴリー)を選択できる機能。多くのツールでは、一般的な分類が既定値としてツールに登録されており、管理者またはツール利用者が追加できる。「ハードウエア」「ソフトウエア」「ネットワーク」「サービス種別」など、管理している対象サービスによってカテゴリーを分ける。

 問い合わせを受け付けた一次窓口の担当者が、自身では解決できない問い合わせを受けた場合、より詳しい二次サポートのメンバーへと段階的に拡大(エスカレーション)するのが一般的である。その際にカテゴリー分けをしておくと、最適なチームに迅速に引き継げるようになる。

(5)ワークフロー

 事前に定義したワークフロー(仕事の流れ、転送の順番)に従い、所定の宛先に依頼をシステム上で転送する機能。一次窓口の担当者が詳しい人や部署にエスカレーションする場合に、その手順を定義しておくことで、作業を単純化できる。

 エスカレーションの対象者や対象部署のマネージャーがシステムにログインすると、転送されたことを示す通知が表示される。メールやSNSなどと連携してプッシュ型で通知することが多い。

(6)検索

 記録した内容をキーワードにより検索する機能である。ツールを使ううちに蓄積される検索履歴などのナレッジを活用することで、効率的で高品質なサービスを提供できるようになる。

(出所:123RF)
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(7)分析

 記録した内容を指定した条件で分析する機能。最近では傾向分析だけでなく、AI(人工知能)を活用した予測・レコメンド(推奨)機能が付いているものがある。

(8)リポート

 記録した内容を提携または指定したフォーマットでグラフ化したり、リポート(報告書)を作成したりする機能。一部のツールでは、よくあるリポートのパターンをいくつか用意している。例えば月初の定例会のために、前月末にリポートを出力するなど、定義した内容でリポートを定期的に自動作成するツールもある。

(9)関連付け

 様々な管理項目を関連付けて管理する機能。例えば、サービスを構成している最新情報とシステムのエラー情報や過去の変更履歴の情報などの関係を管理する。最近ではこのような機能を備えた「統合ITSMツール」も多くなってきている。

4. 代表的なITSMツール

 代表的なITSMツールの例として、10サービスを挙げる(日経クロステック Active調べ)。

 (1)IT Service Management (ITSM):ServiceNow Japan IT Service Management (ITSM)のWebページ 、 (2)LMIS:ユニリタ LMISのWebページ 、 (3)Jira Service Management:アトラシアン Jira Service ManagementのWebページ 、 (4)SmartStage ServiceDesk:クレオ SmartStage ServiceDeskのWebページ 、 (5)Senju/SM & mPLAT/SMP:野村総合研究所 Senju/SM & mPLAT/SMPのWebページ 、 (6)Freshservice:Freshworks FreshserviceのWebページ 、 (7)ManageEngine ServiceDesk Plus:ゾーホージャパン ManageEngine ServiceDesk PlusのWebページ 、 (8)Ivanti Neurons for ITSM:Ivanti Ivanti Neurons for ITSMのWebページ 、 (9)Zendesk for service:Zendesk Zendesk for serviceのWebページ 、 (10)BMC Helix ITSM:BMC Software BMC Helix ITSMのWebページ である。

5. ITSM導入の料金相場

 ITSMを導入するとは、マネジメント全般(組織と人材、プロセス、情報、技術)を実施することであるため、単純に料金を算出することはできない。例えば、問い合わせ対応の業務フローを作ること一つをとってもITSMの活動といえる。

 ITSMツールの導入=ITSMの導入と単純に考えてもいけないことは「よくある誤解」でも記載した通りである。例えば、問い合わせ履歴は大学ノートやExcelに記録できる。網羅的で高度なITSMツールを導入することも、独自に開発することも可能である。

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 「何のために、何を、どのように管理したいのか」をまずは考え、現状の課題を目指すビジョンと目標、さらには投資できる予算とのバランスを考えながら、現実的な計画を立てることを強くお勧めする。

6. ITSMツールを活用する上でのポイント

(1)目的を明確にする

 ツールありきで選定するのではなく、目的(何のためにマネジメントしたいのか)を明確にしてから選定する。そのためには組織のビジョンを再確認(または再定義)することがまず必要である。

 そうすれば、ITSM導入(ITSMツールの導入ではなく)の目標も定義でき、それに必要なツールに必要な条件(対象とするサービス、対象とするプロセス、必要な機能など)が洗い出せる。

(2)ツール利用者にしっかりと教育する

 よくある失敗は、「ツールの利用者マニュアル(やe-Learning)を作成して配布するだけ」というもの。これでは、何のためにこのツールを使用してこれまでにはない面倒な作業をしなくてはいけないのか納得できず、「やらされ感」満載となってしまいかねない。

 以下の3種類の教育により納得感を持った上でツールを利用し、真の意味でITSMを実践できる組織を作っていくことが重要である。

  • ITSMとは何か。なぜ必要なのか
  • 今回実施しようとしている内容。対象とする管理範囲とその管理方法について
  • 管理するために使用するITSMツールとその利用手順について
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(3)定期的に見直す

 ITSMツールを導入すればうまくITSMができると思いがちだがそれは間違っている。これはツールに限ったことではないが、特に忘れられがちなので明記しておきたい。

 ITSMツール導入直後はしっかりと使用していても、半年もたてば使用しなくなったり、最小限の情報しか記録しなくなったりということがよくある。さらにサービスレベルや組織の成熟度、顧客が求める価値は常に変化していくため、それに応じたツールの使い方や、場合によってはツールそのものの見直しも必要である。

7. ITSMツールの代表的な事例

8. 注目のITSMツール

 ITSMを導入して現場で活用するには、様々な手助けをしてくれるツールを利用するとよりスムーズに進む。以下では、注目のITSMツールを紹介する。

ServiceNow Japan

ゾーホージャパン

野村総合研究所

クレオ

9. ITSMの新着プレスリリース

最上 千佳子(もがみ・ちかこ)
ITプレナーズジャパン・アジアパシフィック ディレクター
最上 千佳子(もがみ・ちかこ) システムエンジニアとしてオープン系システムの提案、設計、構築、運用、利用者教育など幅広く経験。2008年ITSMを中心とした人材育成とコンサルティングを行うオランダQuintの日本法人である日本クイントへ入社。ITIL認定講師として多くの受講生・資格取得者を輩出。2012年3月、同社代表取締役に就任。 ITプレナーズジャパン・アジアパシフィックによる日本クイントの吸収合併により、2022年4月から現職。