
消費者やエンドユーザーからの問い合わせに自動で回答する――。コンピュータが人と会話する「チャットボット」は、コールセンターやサポート部門が担っていた問い合わせ対応業務を省力化する技術として注目を集めている。
本記事ではチャットボットとは何か、メリットとデメリット、基本的な機能、製品・サービスの価格相場、活用のポイントを、『超実践!AI人材になる本 プログラミング知識ゼロでもOK』(学研プラス)の監修者であるAI研究家の大西可奈子氏が基本からわかりやすく解説する。併せて、日経クロステックActiveの記事から、代表的な製品・サービスや事例などをまとめて紹介する。
最終更新:2022/05/13
1. チャットボットとは
チャットボットとは人と会話できるコンピュータのことである。広義には音声で会話をするものも含んでチャットボットと呼ぶことがあるが、導入障壁の低さからテキストで会話を行うものが多い。
チャットボットが行える会話の内容は様々で、人間の質問に答えるものもあれば、目的のない雑談を行うものもある。質問に答えるチャットボットは問い合わせ用チャットボットとしてWebページに搭載されていることが多いため、見たことがある読者も多いのではないだろうか。
雑談ができるチャットボットはまだ少なく、質問に答えるチャットボットのサブ機能として簡単な雑談ができるといったパターンが多い。この記事では、質問に答えるチャットボットに絞って解説する。

チャットボットの仕組みは様々で、「AIチャットボット」と名乗っている製品もある。ただAIを名乗るうえで正式な定義は存在せず、AIと名乗っている製品・サービスイコール高性能とは限らない。製品・サービスごとに詳細を確認して、目的に合わせて適切なチャットボットを選択することが大切だ。
2. チャットボットを導入するメリットとデメリット
チャットボットの導入により、企業にもたらされるメリットとデメリットは以下の通りだ。
チャットボットのメリット
チャットボットの採用による企業側のメリットは(1)問い合わせ対応コスト削減、(2)ユーザー満足度向上、(3)問い合わせデータ収集の自動化が挙げられる。
問い合わせ対応コスト削減
ユーザーからの問い合わせに応答するチャットボットを設置すると、これまで人が応答していた問い合わせの一部をチャットボットに応答させることが可能となる。問い合わせ対応工数の削減が期待できる。
ユーザー満足度向上
人による問い合わせ対応を24時間365日行うことは難しく、それはエンドユーザーにとっては問い合わせをできない時間が存在することになる。チャットボットを導入して24時間365日稼働させると、ユーザーはいつでも不明点を解消でき、結果的にユーザー満足度の向上が期待できる。
問い合わせデータ収集の自動化
テキストによるチャットボットを導入すると、ユーザーからの問い合わせをテキストの状態で収集できる。コールセンターでも問い合わせ情報の収集は可能だが、オペレーターによるメモや音声の書き起こしが必要になる。そのコストは軽視できない程度に大きい。テキストで問い合わせ情報を集められると、問い合わせに関するデータ分析が容易となり、サービス改善に生かせる。

チャットボットのデメリット
一方、チャットボットの採用による、企業側のデメリットは「運用コストがかかる」が挙げられる。
運用コストがかかる
チャットボットを運用する手間は、製品・サービスの仕様やシステムの仕組みにも依存するため、一概に「○○であれば×人日程度かかる」とは言いにくい。
ただ、問い合わせ対応を目的としたチャットボットであれば、チャットボット用のQAデータ(質問データと回答データの組み合わせ)のメンテナンスは避けられない。大規模なサービスであれば、QAデータは膨大な量になるため、そのコストは非常に大きなものとなる可能性がある。
3. チャットボットの基本的な機能
チャットボットは大きく分けて「ルールベース型」と「機械学習型」、そして両者の機能を併せ持つ「ハイブリッド型」が存在する。
ルールベース型では、運用者が事前にルールやシナリオを設定しておく。ユーザーが入力した質問文や選んだ選択肢に対応して、ルールやシナリオ通りに回答を返す。機械学習型はFAQ(よくある質問と回答)のデータなどを利用して、あらかじめ機械学習モデルを作成しておく。ユーザーが入力した質問に対し、統計的に正しいであろうと推測される回答を返す。

このようにタイプが多様で、その実装も製品・サービスごとに大きく異なる。そのため、「これがチャットボットの基本的な機能だ」と言い切るのは難しい。そこで、典型的なハイブリッド型の構成を想定して、そこに含まれる代表的な機能を挙げる。
想定した構成は以下の通り。チャットボットでは入力された問い合わせ文の大まかな文意を把握するために機械学習技術(機械学習モデル)を用いる。次に得られた文意に従って、この後に進むべきシナリオを選択する。シナリオはルールベースで記述されており、これ以降の応答はあらかじめ設定されたフローに従う。
(1)機械学習モデル作成機能
データを投入すると、GUIで簡単に機械学習モデルを作成できる機能。機械学習型のチャットボットが搭載する。
(2)シナリオ作成機能
チャットボットが会話するシナリオを作成する機能。専用のGUIが提供され、自由に会話のシナリオを設計できるものもあれば、CSVファイルなどにシナリオを記述し読み込むタイプのものもある。
チャットボットによっては、ヘルプページを読み込むとそれを自動でシナリオ化する機能を持つものもある。手作業でのシナリオ作成はコストと時間がかかるため、シナリオ自動作成が可能なチャットボットであればコストの低減が期待できる。
(3)会話UI機能
ユーザーとチャットボットが会話を行うフロントエンドの機能。ユーザーからの入力を受け付け、それに会話型で返答する画面を提供したり、そうした画面を既存のWebサイトに埋め込んだり、チャットアプリをチャットボットのUIとして使えるようにしたりできる。
例えば、チャットボットを設置したいWebページに特定のコードを埋め込むだけで、右下にAIとのチャットが可能なウインドウを出現させたりできる。LINEやMicrosoft Teamsなどと連携して、チャットアプリ上でチャットボットと会話できるようにする機能を搭載している製品・サービスもある。
会話UI機能がない場合、会話用のUIを別途開発する必要がある。ユーザー企業の開発能力によっては、チャットボットの導入コストが大きく変わる可能性がある。
(4)他システム連携機能
APIの呼び出しなどにより他のサービスと連携する機能。例えば、チャットボットへ天気に関する質問に回答する機能を持たせたい場合、外部から天気情報を取得できると便利だ。こうした外部のシステムと連携するAPIを使うとき、この機能は必須となる。

少し特殊な「他システム連携」として、チャットボットからシームレスに有人チャットへ接続する機能を持つ製品・サービスもある。有人チャットの前段にチャットボットを導入すると、チャット対応負荷をチャットボットにオフロードしてコスト削減を狙える。
(5)ログ分析機能
ユーザーとチャットボットとの会話ログの統計情報を表示する機能。単純な会話数だけを表示する場合もあれば、自然言語解析を実施してどのようなキーワードでの会話が多かったかなどを分析できる製品・サービスもある。
機械学習型のチャットボットの場合、ログ分析機能から機械学習モデル作成機能まで直接データをフィードバックできる仕組みを持つ製品・サービスもある。いわゆる「自動学習機能」だ。こうした製品・サービスを選ぶと、運用コストの低減が期待できる。
4. チャットボットの代表的な製品・サービス
チャットボット製品・サービスの例として、日経クロステック Activeの製品データベース「製品&サービス:IT」から8製品を紹介する。
5. チャットボットの製品・サービス分類と価格相場
チャットボット導入の方法で分類すると以下のように分けられる。
(1)導入から運用まで完全代行型
導入(シナリオ作成)から運用(その後のメンテナンス)まで一括してお任せするパターン。チャットボットの導入や運用に関する面倒な作業を一切行う必要がない。ただし、他と比較して高額な傾向が強い。

(2)プラットフォーム提供型
チャットボットを構築するためのプラットフォーム製品・サービスとそのサポートを提供するパターン。サポートを利用しながら、ユーザー企業が自社で導入から運用までを行う。
サポートの内容は製品によって様々。非常に手厚いものから、ほとんどの作業をユーザー企業が実施することを想定しているものまである。月額数千円程度からスタートできるサービスもあり、(1)と比べて安価であることが多い。製品・サービスによっては、サポートは別料金となる。
このパターンは見えにくいコストもある。効果的なチャットボットを開発するには、プラットフォームの特性の理解が欠かせない。そのうえで必要なデータを集め、シナリオを作成したり、機械学習モデルを作成したりする。プラットフォームの仕様や機能が複雑な場合、それに熟達した人材の育成が必要になる。ユーザー自社の開発力に自信がない場合は、どの程度の支援が受けられるかをあらかじめ確認しておくとよい。
なお、セキュリティ上の都合でSaaS形態を利用できない場合は、チャットボットのプラットフォームを自社のオンプレミス環境にインストールできる製品もある。データを社外に置けない場合は検討してみてもよいだろう。
(3)自社開発
製品を使わず、オープンソースのチャットボットの仕組みを使って自社で開発を行うパターン。自由度は高いが開発コストがかかり、導入までの期間も長い。チャットボットはすでに多くの製品が提供されている。一般的なユーザー企業では、よほどの理由がない限り自社で開発する必要はないだろう。
6. チャットボットを活用するうえでのポイント
チャットボットを効果的に活用するためには、状況や目的に合わせた製品・サービスの選択と、導入後の運用が重要になる。
適切な製品・サービスの選択
チャットボットには、大きく分けて「ルールベース型」と「機械学習型」が存在する。どちらを選ぶかで、構築できるチャットボットの特徴が大きく変わる。

ルールベース型は、運用者の思った通りに動くが柔軟な対応は難しい。一方、機械学習型は柔軟だが、想定していない回答を返してしまうなど、思ったように動かないこともある。また、機械学習モデルを作成するためのデータが必要となる。
回答したいQ&Aが少なく、思った通りの挙動をしてほしい場合は、基本的にルールベース型のチャットボットがファーストチョイスとなる。一方、回答したいQ&Aが多く、シナリオを作成するのが困難な場合は機械学習型が検討対象に入ってくる。
どちらとも言えないデータ量だったり、そもそも回答したいQ&Aの範囲が変わる可能性があったりと判断に迷う場合は、ルールベースと機械学習のハイブリッド型を選ぶのも一つの選択肢だ。ただ、ハイブリッド型はシステムの仕様や機能が複雑になる傾向がある。
導入後の適切な運用
もう一つ重要なポイントは、導入して終わりにしないことだ。効果的にチャットボットを活用するには、運用にも手間を掛ける必要がある。実際に寄せられた問い合わせを基にQAデータをメンテナンスするなどして、ユーザーからの質問に、より的確な回答を届けられるようにするのだ。こうしたチャットボットを改善する、運用のPDCAサイクルを意識しておこう。
具体的には、回答が存在するにも関わらず回答できていない質問を見つけて改修したり、回答が存在しない質問に対応する新たな回答を追加したりする作業である。この作業は非常にコストがかかる。これをアシストしてくれるログ分析機能が付いた製品・サービスを選択すると運用工数を下げられる。
また、運用を通してQ&Aの回答文を見直すことも大切である。いかにチャットボットが質問と正しくひも付いた回答をしていたとしても、その文面が分かりにくいとユーザー満足度は上がらない。
こうしたPDCAサイクルをきちんと回せるよう、運用の体制をしっかりと整えておくことがチャットボットの導入を成功させるポイントとなる。
7. チャットボットの代表的な事例
8. 注目のチャットボット関連製品とサービス
チャットボットを導入して現場で活用するには、様々な手助けをしてくれる製品やサービスを利用するとよりスムーズに進む。以下では、注目のチャットボット関連製品とサービスを紹介する。
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