(出所:123RF)
(出所:123RF)

 電子文書の本人性(本人によって作成されていること)と非改ざん性(内容が改ざんされていないこと)を証明する「電子署名」を使って、企業間の契約のやり取りを電子的に実現する「電子契約サービス」が、ペーパーレス化や働き方の多様化をきっかけに注目されている。

 本記事では電子契約サービスとは何か、メリットとデメリット、基本的な機能、料金相場、活用のポイントを、デジタルを使った企業間の取引に詳しいPPAP総研の大泰司章氏が解説する。併せて、日経クロステックActiveの記事から、代表的な製品や事例などをまとめて紹介する。

初回公開:2021/11/22

目次

★知る
電子署名と電子契約サービスとは
電子契約サービスの分類
電子契約サービスを導入するメリットとデメリット
電子契約サービスの基本的な機能
★選ぶ
代表的な電子契約サービス
電子契約サービスの料金相場
★使う
電子契約サービスを活用する上でのポイント
電子契約サービスの代表的な事例
注目の電子契約サービスと関連サービス
電子契約サービスの新着記事

*「電子署名と電子契約サービスとは」「電子契約サービスの分類」「電子契約サービスを導入するメリットとデメリット」「電子契約サービスの基本的な機能」「電子契約サービスの料金相場」「電子契約サービスを活用するうえでのポイント」は大泰司 章氏が執筆

電子署名と電子契約サービスとは

 電子署名が、業務に欠かせない手段として注目を集めている。新型コロナウイルスの感染拡大で加速したテレワーク実現の障害となっていた、従業員の「印鑑を押す」「文書を郵便で送る」といった物理的な作業を不要にできるからだ。

 電子署名とは、電子文書の「本人によって作成されていること(本人性)」と「内容が改ざんされていないこと(非改ざん性)」を証明する仕組みであり、紙の文書への押印やサインの代わりになるものである。

 紙の場合には、送り主本人しか持っていないものとして印鑑が使われ、その印影が本人のものであると証明するものとして印鑑証明書がある。これに対して、電子署名では主に「公開鍵暗号方式」を採用している。ここで印鑑の代わりになるのが、送信元が電子署名を生成(暗号化)するときに使う「秘密鍵」である。その秘密鍵とセットになる「公開鍵」が本人のものであると証明するのが「電子証明書」である。この方式の電子署名を特に「デジタル署名」と呼ぶこともある。

 電子署名とよく似た言葉として「電子印鑑」がある。ただ電子印鑑は一般的に、「印影のイメージを電子文書に貼り付ける(電子的に押印する)こと」を指しており、本人性や非改ざん性には触れない場合が多い。「電子サイン」いう言葉もあるが、これは電子印鑑と意味合いが近く、一般的には「タブレットなどに手書きしたサイン(署名)のイメージを電子文書に貼り付ける(電子的にサインする)こと」を意味する。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 本稿では、紙への押印により物理的に実現していた契約書のやり取りを、電子署名を使って電子的に実現する「電子契約サービス」に絞って解説する。同サービスは、契約書だけでなく見積書や納品書、請求書といった取引文書のほか、添付書類やその他の電子ファイルのやり取りにも使われている。

電子契約サービスの分類

 電子契約サービスは、提供者の定義によって分類が異なるが、以下の分類で理解すると分かりやすい。

(A)当事者ローカル電子署名方式

 送信元が手元にある秘密鍵を使い、電子署名をすること。クラウド型のサービスが一般的になるまでは、電子署名といえばこの方式を指す場合が多かった。 現在でもMicrosoft OfficeやAdobe Acrobatなどで、当事者ローカル電子署名は可能である。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

(B)当事者クラウド電子署名方式

 サービス提供者が契約当事者(送信元)の秘密鍵を預かり、サービス側で文書に電子署名を施す方式である。送信元は秘密鍵を管理せずに済み、送信元が使用する電子証明書は、認証局から購入しなくてもサービスが発行してくれるものもある。受信先は、署名された文書と発行された電子証明書を元に確認する。

 秘密鍵を管理しなくてよい利便性が受け入れられて、2013年ころから(A)に代わって普及していった。

(C)立会人電子署名方式

 契約当事者ではなくサービス提供者が、立会人のように契約当事者双方の意思を確認して、確認した旨を電子署名とする方式である。契約当事者が自分の指図で、サービス提供者に電子署名を代行させていると考えると分かりやすい。この方式は、事業者電子署名方式とも呼ばれる。

 必要なのはサービス提供者の電子証明書だけで、契約当事者の電子証明書が不要なため、(B)に比べてコストを抑えられる。

 現在の電子契約サービスとは、クラウドを使って電子署名や文書の送受信、電子証明書の運用までを含む(B)または(C)の方式を指すのが一般的だ。ただ両者には、サービス全体としての信頼性に差はない。

 (A)と(B)を混同した上で(C)と比較する例も散見される。選定の際にはサービスがどちら方式で実現しているかを正しく理解しなくてはならない。

電子契約サービスを導入するメリットとデメリット

 電子契約サービスの導入により、企業にもたらされるメリットとデメリットは以下の通りだ。

電子契約サービスのメリット

 電子契約サービスの採用による企業側のメリットは(1)ビジネスのスピードアップ、(2)コスト削減、(3)コンプライアンスの向上、(4)リモートワーク推進のしやすさ――が挙げられる。

(1)ビジネスのスピードアップ

 契約書に物理的な押印や郵送が不要で、電子的なやり取りだけで済むため、契約締結のスピードを高められる。

(2)コスト削減

 印紙税や用紙代、郵便料金、保管スペースが不要になり、作業にかかる工数も削減できる。電子契約サービスを利用するボリュームにもよるため試算が必要だが、サービス利用料よりも削減できるコストが大きくなる場合が多い。

(3)コンプライアンスの向上

 取引状況を一元管理でき、契約書の紛失や災害による消失への備えのほか、監査時の非改ざん性の保証が可能となる。

(4)リモートワーク推進のしやすさ

 押印や書類の発送、受け取りが不要となる。契約文書のために出社する必然性がなくなり、リモートワークを推進しやすい。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

電子契約サービスのデメリット

 一方、電子契約サービスの採用による、企業側のデメリットとしては以下ものがある。

(1)社内の規則や業務フロー変更の難しさ

 社内の規則や業務フローの変更が必要となるが、変更に抵抗がある組織では、導入は困難となる。

(2)取引先との商習慣変更の難しさ

 取引先との商習慣を変えることも簡単ではない。大前提として、取引先への丁寧な説明が必要となる。電子契約を導入できない取引先が残ると、紙と電子の契約が併存する事態となる。

(3)対応すべき契約サービスの乱立

 複数の取引先が異なる電子契約サービスを導入すると、多数の電子契約サービスに対応せざるを得なくなる。

電子契約サービスの基本的な機能

 クラウド型で提供される電子契約サービスが提供する機能を以下に示す。

(1)文書のアップロード/ダウンロードと管理

 送信元が作成した文書のアップロードや、受信先での文書のダウンロードのほか、文書の保管や検索といった管理のための機能である。企業が使う簡易なワークフロー機能を提供する電子契約サービスもある。

(2)取引先との文書の送受信

 取引先と文書を送受信するための機能である。実際には、クラウドにある互いのフォルダ間で文書が往来するだけで、送信元が文書を送ると、取引先にはサービスから文書を受信したことがメールで通知される。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

(3)社内システムとの連携

 社内システムとAPI(Application Programming Interface)などにより連携する機能である。契約書だけでなく、様々な取引文書の作成がシステム化されている場合、1件ごとに電子契約サービスにアップロード/ダウンロードするのは煩雑となるため、この機能を備えていることが望ましい。

(4)文書への署名

 当事者本人が文書に電子署名をする機能である。(B)当事者クラウド電子署名方式では、署名機能と電子証明書の発行機能がシームレスにつながっていることが望ましい。

 契約相手との紛争に備えて、署名した文書だけでなく、ユーザー間のやり取りのログを残す機能や提出できる機能もあった方がよい。

(5)セキュリティおよびトラスト

 当事者のなりすましを防ぎセキュリティを確保するため、アカウント作成時の身元確認やログイン時の本人認証(パスワードなどにより、ログインした人物が本人であると認証すること)をする機能である。さらに企業にとって重要な契約にかかわるサービスだけに、提供者のなりすましを防ぐ機能も欠かせない。

 当然ながら、サーバー環境の二重化やバックアップといったクラウドサービスとしての基本的な機能も重要である。

代表的な電子契約サービス

 電子契約サービスの例として、日経クロステック Activeの製品データベース「製品&サービス:IT」から9製品を紹介する。

電子契約サービスの料金相場

 料金は、送信元となる企業がコストを負担し、受信先は無料であることがほとんどである。料金体系は、毎月定額で発生する基本料金と1文書ごとにかかる利用料金の組み合わせとなるのが一般的だ。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 基本料金は1万~4万円程度だが、無料のものもある。利用料金は無料から300円程度までで開きがある。料金の最適化を目指すのであれば、自社の契約書の量(サービスの利用頻度)を元に試算するとよいだろう。

 これ以外に、(B)当事者クラウド電子署名方式のサービスで当事者の電子証明書を使う場合は、年間数千円かかる。

電子契約サービスを活用する上でのポイント

 一般的なB2Bの取引では、(B)当事者クラウド電子署名方式と(C)立会人電子署名方式という方式の違いには神経質にならなくてよい。気になるのであれば両方に対応しているサービスがあるので、それを利用するとよい。

 「4. 電子契約サービスの主な機能」に挙げた機能で比較表を作ると、主要なサービスは全てに○がつくため、ここでの差異化は難しい。比較表に表れにくい使い勝手は、実際にトライアルができるサービスが多いため、そこで確認するとよい。もし、社内システムとの連携やカスタマイズの必要性がある場合は、サービス側の対応可否を確認する。

 法制度への対応については、2つの法律を意識する。「電子帳簿保存法」と「電子署名法」である。

 前者は「電子帳簿保存法対応」をうたうサービスを選択しておけばいいだろう。その際にはJIIMA(日本文書マネジメント協会)の「電子取引ソフト法的要件認証」を取得しているかどうかを参考にする。

 後者の電子署名法への対応状況を判断することは容易でない。そこで万が一、取引先との紛争が起きて裁判になったときに、具体的にどのようなサポートが得られるかを確認しておく。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 電子契約サービスの導入に当たっては、サービス全体の信頼性やセキュリティが最も重要な要素だが、企業が詳細な検証をして評価を下すことは容易でない。現時点では、サービス事業者が「ISMSクラウドセキュリティ認証*1」や「プライバシーマーク*2」の取得が間接的な評価ポイントになる。併せて「JIPDECトラステッド・サービス登録(電子契約)*3」という民間の登録制度も参考になる。

 この問題については、政府も対応を始めている。今後はデジタル庁やデジタルトラスト協議会(JDTF)で電子署名などを含むいわゆる「トラストサービス」に関する認証制度を作ることになるだろう。

 ただ企業はこれらの制度が整備されるまで待つ必要はない。電子署名と電子契約サービスがもたらす利便性と効率性を評価した上で、導入を判断するべきだ。

 電子契約サービスを使うと、「PPAP」(Passwordつきzip暗号化ファイルを送ります/Passwordを送ります/An号化/Protocol)や「PHS」(Printしてから/Hanko押して/Scanして送ってくださいプロトコル)といった非効率的な業務から脱却できる。あらゆる組織がアナログな業務手順にとらわれず、デジタル化のメリットを享受することが望まれる。


*1 ISMSクラウドセキュリティ認証:クラウドサービスの国際規格であるISO/IEC 27017:2015に基づいて情報セキュリティの管理策が適切に実施されている組織に対する認証。
*2 プライバシーマーク:「JIS Q 15001:2017 個人情報保護マネジメントシステム-要求事項」をベースにした審査基準により、事業者の個人情報を取り扱う仕組みとその運用が適切であるかを評価、認証する制度。一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)がプライバシーマークの使用を許諾する。
*3 JIPDECトラステッド・サービス登録(電子契約):信頼できる電子契約サービスの基準を定め、それに適合しているかどうかを審査する登録制度。JIPDECが運用している。

電子契約サービスの代表的な事例

注目の電子契約サービス関連製品とサービス

 電子契約サービスを導入して現場で活用するには、様々な手助けをしてくれる製品やサービスを利用するとよりスムーズに進む。以下では、注目の電子契約サービスを紹介する。

ドキュサイン・ジャパン

ミロク情報サービス

弁護士ドットコム

電子契約サービスの新着記事

大泰司 章(おおたいし・あきら)
PPAP総研 代表社員
大泰司 章(おおたいし・あきら) 1992年に三菱電機に入社し、官公庁向けITの営業に従事。日本電子計算(JIP)を経て、2012年よりJIPDECにてメールやWebサイトのなりすまし対策、電子署名等のトラストサービスの普及や電子契約サービス市場の立ち上げに従事。2020年から合同会社PPAP総研を設立し、取引の電子化のみならず、PPAPをはじめとする不合理な商習慣の廃止や、DXのコンサルタントとして活動中。