近年の急速な環境変化の影響もあって、「デジタルトランスフォーメーション」や「DX」という言葉への関心が高まっています。そんななか、ビジネスモデルを変革しようとDXに取り組んでもなぜか全く進まず、これから何をしたらいいか分からないという壁に当たってはいませんでしょうか。

 経済産業省は2018年に公表した『DXレポート』において、老朽化したITシステム、すなわち「技術的負債」がDXの最大の障害であると指摘しました。一見関係が薄いように思える「古いシステムの改修」が、なぜデジタル技術を用いたビジネス変革につながるのでしょうか。

 実はその理由をひもといていくと、DXに取り組むうえで最も重要なポイントが見えてきます。著者が理事を務める日本CTO協会ではそのポイントを「2つのDX」と呼んでいます。

 1つは取りも直さず「Digital Transformation(企業のデジタル化)」です。そしてもう1つが「Developer eXperience(開発者体験)」という観点です。以下では技術的負債と2つのDXのつながりを解説していきます。

アマゾンは1時間に1000回以上の改善

 デジタルトランスフォーメーションに取り組もうとするとき、新しい技術で新しいビジネスを始めるにはどうしたらいいか、そのときに適した開発会社はどこかなどを気にされる方が多いかと思います。これは自然な発想です。自社にない技術を外部から調達して開発を進めたほうが効率が良く、もし失敗しても協力会社との契約を打ち切ればいいだけなので経済合理性もあります。

 そのため、古いシステムには目をつぶって、新事業を興すことに注力するのがデジタルトランスフォーメーションだという考えがあります。ただ、これがなかなか難しく、成功しにくい面があります。仮にうまく立ち上がってもすぐに落とし穴にはまってしまうものです。

 その理由は、これまでの特集で述べたように、ソフトウエアとビジネスを分断してしまう組織風土こそが技術的負債を生み出しているという事実と関係があります。

 現在、ソフトウエアをベースとしたビジネスにおいて、トップ企業ではソフトウエアを改善するスピードが桁違いに速くなっています。このスピードを自分のものにしないと、最新技術で新しいソフトウエアを1~2年かけてつくっても、出来上がった頃には陳腐化し、ビジネスとしての有効性がない恐れがあります。

 そうした状態では、トップ企業と伍(ご)していくのは難しいでしょう。自社の環境があまり変化せず、システムを業務効率化に使ってきた時代に対して、現在のシステムは顧客や最終顧客に提供する商品そのものになりました。商品を通じた体験やサービスに関心の領域がシフトしてきたからです。

 米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)は1時間に1000回以上も様々なシステムを改善し、デプロイしているといいます。日本国内のベンチャー企業でも1日に数回から数十回の改善とデプロイは当たり前の水準になってきています。

 日本の大企業のシステムはどうでしょう。関連部署やパートナー企業とのコミュニケーションコストの山と、上長への説明コストの山をかき分けながら、改善のたびに手作業で品質をチェックしています。月に1回改善できればいいほうで、半年に1回、1年がかりというケースも珍しくありません。

 過去のシステムの改善スピードが遅くなってしまった理由に向き合わないままだと、何度新しいシステムをつくり直しても、それが再び技術的負債と化すか、あるいはビジネスに敗北してシステムごと消えていくだけになります。

「見えない投資」がもう1つのDXにつながる

 既に本特集で述べたように「ソフトウエアは見ることができないという性質(不可視性)」を持っています。

 技術的負債をなくすには、パフォーマンスの良さや拡張性、発展性、保守性、信頼性などソフトウエアが持つ性質をできるだけ可視化して理解し、そのうえで必要となる「品質への投資」を進めることがまずは必要です。同時に、品質の投資を認める組織文化の醸成も欠かせません。なぜなら企業文化もまた見えにくいものだからです。

 こうした目に見えないものへの投資はビルの基礎工事や構造計算のようなものです。この部分をおろそかにすれば、たちまちビルは倒壊してしまいます。表面上は「見えない」という点や、専門性がないと判断できない点も似ています。

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