大きな進歩を遂げて活用が広がる人工知能(AI)。これまで数年の周期で「ブーム」と「冬の時代」を繰り返し、今まさにブームである春の真っただ中だ。本特集では、世界的名著「ゲーデル、エッシャー、バッハ あるいは不思議の環」(白揚社)の著者、ダグラス・ホフスタッターの愛弟子が「AIの春」について4回にわたってお届けする。第1回はAIにおける現在のブームの状況と、「人間レベルのAI」の定義に関する議論について解説する。

春爛漫

 あなたは飼っているネコの動画を撮って、YouTubeに投稿したことがあるだろうか?もしそうだとしたら、仲間はたくさんいる。YouTubeに投稿された動画は10億本を超えていて、ネコを主役にしたものも多い。

 2012年、グーグルのAIチームは10億個以上の重みを持つ多層ニューラルネットワークを構築した。そのネットワークはYouTubeの動画を無作為に何百万本も「視聴」しながら、動画から取り出した静止画をうまく圧縮、復元できるよう、重みを修正した。

 グーグルの研究者たちは、システムに対してどんなモノについて学習するのかを指定しなかったが、1週間の訓練後にネットワークの内部を調べると驚くべきものが発見された。それはどうやら「ネコ」をエンコードすると思われる「ニューロン(ユニット)」だったのだ原注1

 自己教示学習によってできたこの「ネコ認識器」は、ここ10年のあいだに次々に発表されて世間の注目を集めたAIの目覚ましい成果のひとつだ。こうした快挙の大半は、「深層学習」と呼ばれる一連のニューラルネットワークのアルゴリズムを利用したものだ。

 最近まで、AIの一般的なイメージは『2001年宇宙の旅』、『ターミネーター』といった映画や、テレビ番組で主役級の活躍をしていたものから来ていた。現実の世界のAIは、日常生活や主要メディアでほとんど注目されなかった。

 1990年代やその前の時代にすでに大人だった人は、カスタマーサービスの音声認識システム、言葉を覚えるおもちゃロボット「ファービー」、あるいはマイクロソフトのうっとうしい失敗作であるクリップ姿のバーチャルアシスタント「クリッピー」、といったものにイライラさせられた記憶があるのではないだろうか。当時はAIが花開くのは遠い先に思われていた。

 もしかすると、1997年にIBMのチェス専用システム「ディープ・ブルー」が世界チャンピオンのガルリ・カスパロフを破ったときにショックを受けて動揺した人があれほど多かったのは、それが理由だったのかもしれない。

 この勝負の結果にあまりのショックを受けたカスパロフは、IBMのチームが不正行為をしたのではないかと訴えたほどだった。

 コンピューターがこれほどうまく指すには、人間の名人に助言してもらわなければならないはずだというのが彼の言い分だった原注2(なんとも皮肉なことに、2006年の世界チェス選手権では事態は一変した。対戦相手がコンピューターチェスプログラムに頼って不正行為をしているに違いないと、ある選手が訴えたのだ原注3)。

 ディープ・ブルーに対する私たち人間の集団性の不安は急速に薄れた。私たちは、チェスの対戦がコンピューターのしらみつぶし戦法に屈する恐れがあることを受け入れた。どのみちチェスに秀でているからといっても全般的な知能レベルが高いわけではないのだから、と自分に言い聞かせて。

 どうやらこういった反応は、ある作業でコンピューターが人間の能力を上回ったときに共通のもののようだ。私たちは、その作業は実は高い知能レベルを必要としないものなのだと決めつけてしまう。

 この傾向に対して、ジョン・マッカーシーは「ある作業がうまくできるようになったとたん、そのコンピューターはもはや『人工知能』とは呼ばれなくなる」と憂いた原注4

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