本連載では、デジタルマーケティングに長年携わってきた上島千鶴氏(Nexal)と熊村剛輔氏(セールスフォース・ドットコム)に、日本のBtoBデジタルマーケティングの実情を対談形式で聞いている。
第2回目の今回は、コロナ禍で接近した感のあるデジタルトランスフォーメーション(DX)とマーケティングの関係をテーマに語ってもらった。
多くの日本企業がDXに取り組んでいますが、その検討結果として「営業とマーケティングの変革」に行き着いたという企業の話を聞いたことがあります。最近、こうした企業が増えているといってよいでしょうか?
上島:そうともいえないのが現状ですね。まずDXは、企業によって「何を目指すものか」「何を実現したいのか」といった目的や意味合いがまるで違っています。
最も多いのは「業務効率化」や「生産性向上」という、社内業務や生産プロセスの改善を意味する取り組みです。働き方改革を含め、いかに業務や手作業のムダを減らすのかという中で、デジタルを絡めていく考え方です。
2番目に多いのが、既存事業にはなかった新しいビジネスモデルに挑戦する企業が、そこにデジタルを使うという考え方です。「モノ売り」をしてきた製造業がデータプラットフォームをベースに「コト売り」に転換していくとか、クラウド上でのサービス展開によって新しい顧客価値を創り出すといった例になります。

3番目が、顧客に合わせてこれまでの売り方や仕組み、顧客とのコミュニケーションなどにデジタルを活用するという考え方です。営業やマーケティングとDXが結びつくとしたらこのタイプです。
最も始めやすいのは、1番目の業務効率化でしょう。DXを推進するチームには部署横断的に人材が集められると思いますが、そこに「マーケティング脳」(マーケティングにかかわる知見)を持つ人が参加していないと、顧客への新しい価値提供や、コミュニケーションの最適化といったテーマは出てきません。
業務プロセスの見直しについても、本来はEX(従業員の体験設計)という視点が必要になりますが、ここまでには踏み込まず、部分最適で終わることが増えています。これらの取り組みをDXと呼ぶのかには疑問も残ります。
熊村:同感です。最近、「DX推進」についての相談をいただく機会が多くなりましたが、その際に必ずお伝えしていることがあります。それは、DXを考える際に「D」だけではなく、その前にある「C(=CX:顧客の体験設計)」、そして後ろにある「E(=EX:従業員の体験設計)」を併せて考えましょうというものです。