本連載では、デジタルマーケティングに精通する上島千鶴氏(Nexal)と熊村剛輔氏(セールスフォース・ドットコム)に、日本のBtoBデジタルマーケティングの実情について、対談形式で聞いてきた。
2021年版の最終回となる今回は、個人情報保護への対応や技術の進化によって、マーケティングの世界で今後1~2年のうちに起きる変化を展望してもらった。
第2回までで話してきたように、新型コロナウイルスの感染拡大はBtoB企業の営業やマーケティングに大な変化を及ぼしました。一方で、個人情報保護を取り巻く環境に変化が見られます。2018年には欧州連合(EU)がGDPR(一般データ保護規則)を施行し、Webサイトの閲覧履歴を追跡するために使われてきた「Cookie(クッキー)」の消滅(利用規制や提供停止)が現実になりつつあります。これらを踏まえて今後1~2年で、BtoBマーケティングの世界に起こりそうなことを予測していただけますか?
上島:個人情報保護についてはGDPRへの対応を含め、企業によるWebサイトへの実装がずいぶんと進んできた印象です。各国の法規制に合わせて、個人情報に属する各種データを分けておくといった対応も始まっています。

例えば、MA(マーケティングオートメーション)ツールをグローバルで導入している企業では、個人情報の取り扱いが異なる国・地域ごとの対応を、一通り済ませたところが多いように見えます。
熊村:システム面の実装は着実に進んでいますね。私はこの1年、マーケティングを語る際に「エシカル(=ethical:倫理的な、道徳上の)」という言葉をよく見聞きしました。
自分たちではなく、まず相手の都合を考えるという、人間同士の付き合いにおける基本的な考え方が、マーケティング活動にもより強く求められるようになってきたということです。それに応えるべく、企業も行動を始めています。今後は、どれだけエシカルなマーケティングができるかで、企業が評価されていくことになるでしょう。
上島:あと、2021年3月24日に、改正個人情報保護法関係の政令・規則が公布され、2022年4月1日に全面施行という発表がありました。これをよく見ると、行為者である個人よりも法人に対する罰金刑の最高額が引き上げられています。(詳細はこちら)
こういった法改正の動きからみても、個人情報の取り扱いについてはますます厳しくなってくるのではないでしょうか。
2021年4月下旬、総務省がLINEに行政指導をしました。利用者の個人情報に、中国にある関連会社の従業員がアクセス可能であったことを問題視されたものです。LINEはBtoCのサービスが中心ですが、BtoB企業も個人情報の扱いへの配慮を問われるようになるのでしょうか?
上島:LINEの個人情報管理は以前から一部で指摘されていましたが、ユーザーの多くは、企業の成り立ちや、サーバーがどの国や地域に置かれているかについて、あまり意識しないものですよね。