ブロックチェーン技術は企業の新たな資金調達の手段として、証券業界に変革をもたらしている。企業がマーケティングと結びつけて「ファン投資家」を集めるなど、証券市場の拡大競争が始まろうとしている。
「2時間ほどで完売したときは社内が沸いた」。こう振り返るのはSBI証券経営企画部兼STOビジネス推進部の武田平主任だ。SBI証券は2021年4月、国内で初めて一般投資家向けに計1億円分のデジタル社債を発行し、自ら資金調達をした。
SBIが発行したデジタル社債は発行期間1年で利率0.35%(税引き後0.278%)で、額面10万円から最大500万円まで購入できるものだった。2021年4月20日の午前11時に販売を開始すると、午後1時には完売した。「初めてなので不安もあったが、想定以上に注目度が高かった」(武田氏)と手応えの大きさを語る。
SBI証券がデジタル社債と名付けたのは、セキュリティートークン。従来の株や債券などの有価証券に代わって、ブロックチェーン技術を使って管理されるデジタルの権利証である。こうしたデジタルトークンを使って資金調達することを、セキュリティー・トークン・オファリング(STO)と呼ぶ。
ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)はブロックチェーン技術を使って取引記録の正当性を検証し、不正な取引や改ざんを防止する。法定通貨のように価値を保証する仕組みはない。一方、STOのデジタルトークンは既存の有価証券と同様に、企業の信用力や不動産といった裏付けとなる資産が存在する。どのように管理されているのだろうか。
2020年にSTOの法制度が整う
STOをスタートするために、国内では2020年に法制度を整えたばかりだ。金融庁が2020年5月に施行した改正金融商品取引法に「電子記録移転権利」などとして規定した。SBI証券は2021年3月に国内の金融機関で初めて同法に準拠したSTOの取り扱いが可能になった。
株や債券などの有価証券は、業界団体の日本証券業協会によって自主規制されている。これと同様に、STOのセキュリティートークンは2020年4月に金融庁から認定を受けた日本STO協会によって自主規制されている。2021年5月時点でSBI証券をはじめ、大手証券やインターネット証券会社、信託銀行の12社が日本STO協会の正会員になっている。