日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボが2021年6月9日に開催した「ITイノベーターズ会議」。エグゼクティブメンバー(幹事会員)らによるディスカッションでは毎回熱い議論が繰り広げられる。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)が病気と化している」――。SOMPOホールディングスの楢﨑浩一デジタル事業オーナーグループCDO(最高デジタル責任者)執行役専務はこう警鐘を鳴らした。
手段であるはずの「デジタル活用」が目的化してしまっている企業は少なくない。「DXの『D(デジタル)』はX(変革)のための手段の1つでしかなくて、極端に言えば無くてもよい。優先すべきはXであることを改めて認識すべきでしょう」と楢﨑専務は指摘する。
新型コロナウイルス禍の閉塞感打破への期待もあり、日本は空前のDXブームである。ただし、その本質を見失っては元も子もない。DXは、「変革」よりも「デジタル活用」が目的化してしまうリスクをはらむ――。ITイノベーターズの幹事である変革リーダーは、こうした現状に危機感を抱いている。
「先進企業はDXという言葉を使わない」
この議論のきっかけとなったのが、ブレインパッドの関口朋宏取締役ビジネス統括本部本部長の講演だった。関口取締役は「データ活用を通じて成長するために必要な組織風土と人づくり」と題して講演。データ駆動型の経営を促進するための組織風土や人材の育成について説明した。
その中で、DX先進企業をインタビューした際の気づきとして、「各社DXの推進方法は異なるものの、共通したのが社内で『DX』という言葉を使っていない点だった」と関口取締役は明かす。「DX先進企業は口をそろえて『(デジタルを使うことを)目的にしてしまう事態が一番怖い』と話していた」(関口取締役)。