従業員情報は事業部門・人事部門の双方にとって、戦略・施策を考えるうえで重要な示唆が多く含まれている。しかし、十分に活用されていない場合が多い。本稿では、従業員情報を活用するためのデジタル方策、および人材データ活用に必要な活動内容を説明する。
人材戦略と事業戦略との乖離が大きくなっている
2020年に経済産業省が発行した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~」の中で、「持続的な企業価値の向上を実現するためには、ビジネスモデル、経営戦略と人材戦略が連動していることが不可欠である。一方、企業や個人を取り巻く変革のスピードが増す中で、目指すべきビジネスモデルや経営戦略と、足元の人材および人材戦略のギャップが大きくなってきている」との課題認識がされている。
[参考]「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~」(発行:経済産業省)
なぜこのような指摘がされるのだろうか。人事部門が怠慢だったのかというと、決してそうではない。多くの人事部門はエンゲージメント、職種・雇用形態、評価、賃金、研修、採用などの分野での改革を熱心に取り組んでいる。それらの活動は全てビジネスの発展、継続のためのものだ。
従業員情報を事業部門・人事部門が活用できていない理由
なぜ事業戦略と人材戦略で乖離(かいり)が起きていると言われるのか。その要因の一つは人事部門・事業部門ともに従業員情報を十分に活用できていないことにある。
従業員情報は人事部門が保有している発令や評価、賃金や勤務時間などの情報と、現場間で感覚的に把握されている個人の行動情報や感情・体験情報がある。人事部門が人材戦略を考える際、現場の従業員情報を十分に把握・分析したうえで立案できていないことや、事業側でも事業戦略を立案するうえで従業員情報を効果的に活用できていない場合が多い(図1)。特に複数の事業を展開する企業や、多くの従業員を抱える企業においてこの傾向は顕著である。