「テレワークによって生産性が上がったと答えた人の割合は23.7%。下がったと答えた人は51.1%」。日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボが2021年4月に実施した「働き方改革に関する動向・意識調査」ではこんな結果が出ている。いずれも、2度目の緊急事態宣言が解除された2021年3月から3度目が再発令される同年4月までの期間における数値だ。

 2020年春以降、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する手段として、テレワークに注目が集まっている。多くの企業がオフィスワークに取り組む社員を対象に導入しているものの、前出の調査結果のように、テレワークによって生産性が上がったと感じるビジネスパーソンは2割台と低迷している。

 しかし「テレワークでは生産性が上がらない」という理由だけで、出社勤務に戻すのは避けたい。感染力が強いデルタ株の猛威も考えると、社員を守る上でも、テレワーク環境下での生産性を高める工夫を凝らすことが欠かせない。社員が多様な働き方を選べるようにするためにも、テレワークには積極的に取り組んでいきたい。

コロナ下で7割の社員が生産性向上を実感、40%多くタスクこなせる企業も

 テレワークを続けながらも生産性は高められる。2020年春以降、テレワークを大規模に進める企業のなかには、前述の調査とは違う結果を得ているケースが少なくない。

 その1社がスウェーデンの病院施設向け設備・医療機器メーカー、ゲティンゲだ。日本法人であるゲティンゲグループ・ジャパンが2021年4月に発表した10カ国でオフィス勤務をしているゲティンゲの従業員を対象にした調査によると、70%以上が「テレワークによって生産性が向上し、ワークライフバランスにプラスの影響があった」と考えていると分かった。

在宅勤務をしているゲティンゲグループ・ジャパンの社員
在宅勤務をしているゲティンゲグループ・ジャパンの社員
(出所:ゲティンゲグループ・ジャパン)
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 電子書籍販売サービスなどを手掛けるイーブックイニシアティブジャパンもテレワーク環境下で、サービス開発に携わるITエンジニアの生産性が向上している。同社の辻靖執行役員最高執行責任者(COO)は「ITエンジニアが1週間当たりどれだけのタスクを処理できるかを調べたところ、コロナ前に比べて、40%ほどこなせるタスクが増えていた。モチベーションに関するスコアも調べているが、コロナ下で10%以上、向上している」と効果を語る。

 イーブックイニシアティブジャパンの辻執行役員COOは生産性が向上している直接的な理由について、次のように話す。「テレワークでは出社時とは違って、パソコン作業中に周囲から声をかけられるといった横やりが入りにくい。ITエンジニアは作業に集中できる。通勤をせずに済むようになったことも大きい。特に夏場は満員電車での通勤で、会社に着くとヘトヘトになりがちだ。テレワークでこうしたことがなくなっていることが大きい」。

テレワークのベースとなる環境整備が生産性向上の秘訣

 イーブックイニシアティブジャパンのITエンジニアがテレワーク環境下で生産性を向上できた理由はこれだけではない。働き方を出社勤務からテレワークへ移行するに当たって、「人事制度をはじめ、テレワークのベースとなる環境を整備して、社員がストレスなく仕事を進められるようにしてきた」と、辻執行役員COOは明かす。

 ゲティンゲグループ・ジャパンの奥田幸江執行役員人事総務本部長は「従業員の業務を見える化して共有したり、コミュニケーションを綿密に取ったりするといった地道な取り組みが現場に定着している。加えて、ジョブディスクリプション(職務記述書)を整備した上で、最も成果が上がる働き方を従業員が選べるようにもしている」と説明する。

 つまり、テレワーク先進企業は、単に社員の働き方を出社勤務からテレワークへ切り替えるだけでなく、高い生産性でテレワークを進めていけるように工夫を凝らしているわけだ。

 そこで本特集では、テレワーク環境下における生産性向上策を、テレワーク先進企業の取材を中心に紹介していく。生産性向上策は様々あるが、今回はテレワーク中心の働き方に移行するに当たっての業務の電子化を取り上げる。

社内のあらゆる業務をオンラインで完結、作業時間を短縮

 前述のイーブックイニシアティブジャパンやゲティンゲグループ・ジャパンでも、業務の電子化を進めている。イーブックイニシアティブジャパンの辻執行役員COOは「テレワークはオンラインを前提に進めていくことになる。そこで、社内のあらゆる業務をオンラインで完結できるようにした」と振り返る。

 イーブックイニシアティブジャパンでは2020年2月以降、社員約180人の多くが新型コロナ対策でテレワークに取り組んできた。取り組みの当初からWeb会議サービスの「Zoom」を利用できるようにしたり、ビジネスチャット「Slack」でコミュニケーションを取るようにしたり、豪アトラシアンの情報共有ツール「Confluence」を使って業務の可視化を徹底したりしてきた。

 さらに、出社が必要な紙文書を扱う業務について、クラウドサービスなどを順次導入して電子化することで、テレワークで仕事を進められるようにしている。

 イーブックイニシアティブジャパンではコロナ禍前から、インフォマートの「BtoBプラットフォーム」を利用した請求書発行の電子化や、SAPグループである米Concur Technologies(コンカー・テクノロジーズ)のクラウド「Concur Expense」による経費精算の電子化を進めてきた。

 請求書発行の電子化で、それまで7時間ほどかかっていた社内の作業時間を4時間に短縮できた。経費精算の電子化では、それまでは1カ月当たり78時間かかっていた社内の作業時間を、1カ月当たり20時間にまで減らせた。

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