業務変革型DXを進める際、事業部門はデジタル技術を十分に理解しているとは限らないうえに、デジタル技術が無くても業務を行えます。そのため事業部門はDXに対して不安が大きく積極的ではないことがあります。

 これまでのDX事例では、DXの推進部門が中心となり経営的な目的や業務上の用途を曖昧にしたまま、事業部門の理解を得ずにデジタル技術や製品の「PoC(概念実証)」に取り組むケースが少なくありませんでした。その場合、業務での活用や成果になかなか結びつきません。多くの場合PoCで終わってしまいます。

 DXで成果を出すには事業部門の不安を払拭し、理解と協力を取り付けることが極めて重要です。では、どのように進めればよいのでしょうか。ここからは、架空のITベンダー、日経ITソリューションズの中堅SE、村山さんが担当したDXの事例を用いて学んでいきましょう。

 202x年2月、日経ITソリューションズの中堅SE村山は、顧客であるマイルス精工IT部の松本部長から、工場を対象としたDXプロジェクトの支援を依頼された。1週間以内に要件定義フェーズの進め方を提案しなければならない。

 村山は松本部長からの依頼をうれしく思った半面、不安が大きかった。DXの知識も経験もほとんど無かったからだ。そこで以前から親交があり信頼している先輩SEの工藤に相談した。工藤は、要件定義やシステム企画などを専門に扱うビジネスシステム部に所属する、超上流工程のエキスパートだ。

 村山は工藤からDXの内容や推進の注意点について教えを受けた。続いて、DXの具体的な進め方を尋ねた。

「工藤さん、DXを成功させるにはどう進めたらいいか教えてください」
「そうだな。特定の部署で新しい施策を試行してから全体に展開したほうがいいよ」
「それは最初に、使えそうな技術や製品を選んで実際に試すという意味でしょうか?」

 この言葉を聞いた工藤は一瞬、眉間にしわを寄せた。
「そういう意味ではないよ。俺の説明がよくなかったな。技術や製品ありきでDXを進めると現場での活用や成果につながらないんだ。それがPoCで終わってしまう典型パターンだよ」
 工藤は渋い表情で言い切った。

「そうなんですか。DXの進め方を詳しく教えてもらえませんか」
 村山が不安そうに聞いた。
「OK、説明しよう」

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