「退職」という言葉は、少し前まであまり良い意味で使われていませんでした。定年まで勤め上げるのが一般的で、転職はよほどのことがなければしなかった時代。ましてや退職して資産運用でゆっくり暮らすというライフプランなど、夢のまた夢と考えられていたように思います。

 ここへ来て、働き方改革や新型コロナウイルス禍によるテレワークの促進などによって、人と会社との関わり方が多様化してきました。早期退職制度の運用を始める大手企業も増え、年齢にかかわらず退職に対する抵抗感は薄れてきたといえそうです。

 一方で、退職後の暮らしについてはそれほど理解が進んでいない印象があります。例えば、これまで会社に任せきりにしてきた税金や健康保険などの支払いです。資産運用をどうするかだけでなく、こうした支出や手続きについても理解しておく必要があります。

税金の支払い、催促を無視したら?

 先日も筆者がカフェで原稿を書いていたら、こんな会話が漏れ聞こえてきました。何らかの高額商品を売り込もうとしている営業担当者と、その客が話しています。お客は退職を前に今後の生活設計を考えているようです。

:退職後も税金とかいろいろ請求がありますよね。現金は残しておかないとまずいと思うんですけど。

営業担当者:確かに現金があるに越したことはないですが、大丈夫ですよ。公共インフラ料金と税金関係は、先延ばしにすることもできますから。

:そうなんですか。

営業担当者:多少催促はされても、何度か無視すればとりあえず諦めて放っておいてくれます。ですから安心してうちにお任せください。

:本当に大丈夫?

営業担当者:大丈夫ですよ。私どものお客様に同じような方はいくらでもいますが、皆さん私どもにお任せくださっています。それで、今回のご提案ですが……。

 その後商談がどのようになったかは分かりませんが、退職後に発生する支出や手続きについて、知識を身につけておくことの重要性を改めて感じました。

 退職しても発生する代表的な固定費の1つが、健康保険です。退職後の健康保険には、大きく3つの選択肢があります。(1)これまで加入していた健康保険を任意で継続する、(2)国民健康保険に加入する、(3)被扶養者として家族の健康保険に加入する、です。

 仮に(1)を選択した場合、保険料は退職時の標準報酬月額に基づいて決まります。その金額は、原則として2年間変わりません。つまり収入はなくても、これまで同様の健康保険料を毎月支払うことになります。まずは、自分が毎月いくらの健康保険料を払っているのか、確認することから始めてみましょう。

 任意継続の健康保険の場合、健康保険料を期限までに納めなければ資格を失うことがあります。国民健康保険の場合は督促状が届きますし、それを無視し続けていると有効期限が通常よりも短い保険証に切り替わることがあります。

 毎月きちんと支払っている人との公平性を考えれば、このような措置は当然といえます。なお、事情があって支払えない場合には窓口で相談ができますので、早めに問い合わせをすることをお勧めします。

 国民年金も同じです。国民年金保険料については、老後の年金だけでなく、障害年金や遺族年金もカバーしています。支払いが難しい場合には、免除制度や納付猶予制度もあります。

 国民健康保険や国民年金は、保険料を滞納しても自宅まで徴収しに来ないと思っている人が多いのですが、それは誤解です。玄関先まで担当者が訪ねてくるケースもあります。マンションのエントランスでインターホン越しに支払いを促され、他の住民に聞かれて恥ずかしい思いをしたという事例も知っています。

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